#23 Reset me
馨は一歩一歩部屋の中へ入っていく。
薄暗さにもだいぶ目が慣れ、中の様子が完全ではないものの、見てとれる。
特に綺麗好きという訳でもないのに、余計な物は置いていない端正な部屋だ。
「あのね…」
頭の整理などいらないかもしれない、思い浮かんだままを伝えればいい…馨はそう思った。
流川の元へとあと数歩のところで足にコツンと当たった感触があり、何の抵抗もなかったそれはベッドの枕側の影へと消えていった。
目が慣れたとはいえ、影の中の物は一目で確認することはできなかった。
何かと思って影の方へと行くと、そこに見慣れた球体を発見する。
(ボール…?)
感覚でバスケットボールであることが判った。
こんな所に転がしておくなんて不用心な…
「ボール出しっぱなし、危ないよ」
薄暗い床に転がったままのボールを拾い上げる。
手に持つと僅かに小さく感じたそのボールは、触れた瞬間、使い込まれたものだとすぐに判った。
表面の革はは少し剥げてしまっていて、触れた感触も削られてしまっているのか普段使っているボールと比べるとツルツルとしている。
そして拾い上げた瞬間から心の奥底から沸き上がってくるものを感じていた。
(あれ?これは…)
年季の入った手触りと持った感覚が、明るいところで見なくても、それがどういうボールなのかすぐにわかった。
使い込まれたボールの感触…
この感触には覚えがある。
頭の中に懐かしい記憶が蘇ってくる。
(このボール…)
幼い頃の記憶が湧いてくる。
今日の帰り道に立ち寄った、あの広場。
あの場所で二人一緒にこのボールでシュートをしたこと…
その時の記憶が懐かしくなってボールの在りかを知りたくなったけど…
(こんなところにあったんだ…)
ボールを見つめたまま、言葉を呑んでいる馨を流川はじっと眺めていたのち、ベッドに座り直す。
「…覚えてるか?そのボール」
「うん、覚えてる。初めて買ってもらったボール…だよね」
「すげーボロボロだけどな…」
「ホントだ、すごいボロボロだ…」
革が剥げた部分を優しく撫でながらフッと笑う。
ボロボロになった革の下から覗く布地が痛々しくもあり、妙に愛おしく思える。
馨はボール全体を確かめるように、色んな面を眺めている。
前から部屋に入ってるはずなのに、全然気づかなかった。
部屋の片隅に、ずっと転がしておいてあったのだろうか…
それともどこかにしまっておいたのだろうか…
自分が探そうと思っていたボールは意外な場所で見つかった。
こんなに近くにあったのに、
こんなに見えるところにあったのに…
どうして今までわからなかったんだろう…
「楓が持ってたんだ、このボール」
「あぁ。ずっと持ってた。使わなくなってから、ずっと」
「ずっと…?」
「あぁ、ずっとだ」
ずっと…
流川の声が頭の中に留まる。
そして、あの日の自分の声が重なってくる。
『ずっと…』
『ずっと…』
『ずっと、一緒に…』
初めてバスケと出会った帰り道、手を繋ぎながら家へと向かう道で、自分が言った言葉。
あの時の情景が頭の中で鮮明に思い出された。
『楽しそうだね、バスケット』
『二人でずっと一緒にバスケットしようね!』
二人で、
ずっと、
一緒に…
あの時の自分の純粋な気持ちに心が締め付けられた。
.
薄暗さにもだいぶ目が慣れ、中の様子が完全ではないものの、見てとれる。
特に綺麗好きという訳でもないのに、余計な物は置いていない端正な部屋だ。
「あのね…」
頭の整理などいらないかもしれない、思い浮かんだままを伝えればいい…馨はそう思った。
流川の元へとあと数歩のところで足にコツンと当たった感触があり、何の抵抗もなかったそれはベッドの枕側の影へと消えていった。
目が慣れたとはいえ、影の中の物は一目で確認することはできなかった。
何かと思って影の方へと行くと、そこに見慣れた球体を発見する。
(ボール…?)
感覚でバスケットボールであることが判った。
こんな所に転がしておくなんて不用心な…
「ボール出しっぱなし、危ないよ」
薄暗い床に転がったままのボールを拾い上げる。
手に持つと僅かに小さく感じたそのボールは、触れた瞬間、使い込まれたものだとすぐに判った。
表面の革はは少し剥げてしまっていて、触れた感触も削られてしまっているのか普段使っているボールと比べるとツルツルとしている。
そして拾い上げた瞬間から心の奥底から沸き上がってくるものを感じていた。
(あれ?これは…)
年季の入った手触りと持った感覚が、明るいところで見なくても、それがどういうボールなのかすぐにわかった。
使い込まれたボールの感触…
この感触には覚えがある。
頭の中に懐かしい記憶が蘇ってくる。
(このボール…)
幼い頃の記憶が湧いてくる。
今日の帰り道に立ち寄った、あの広場。
あの場所で二人一緒にこのボールでシュートをしたこと…
その時の記憶が懐かしくなってボールの在りかを知りたくなったけど…
(こんなところにあったんだ…)
ボールを見つめたまま、言葉を呑んでいる馨を流川はじっと眺めていたのち、ベッドに座り直す。
「…覚えてるか?そのボール」
「うん、覚えてる。初めて買ってもらったボール…だよね」
「すげーボロボロだけどな…」
「ホントだ、すごいボロボロだ…」
革が剥げた部分を優しく撫でながらフッと笑う。
ボロボロになった革の下から覗く布地が痛々しくもあり、妙に愛おしく思える。
馨はボール全体を確かめるように、色んな面を眺めている。
前から部屋に入ってるはずなのに、全然気づかなかった。
部屋の片隅に、ずっと転がしておいてあったのだろうか…
それともどこかにしまっておいたのだろうか…
自分が探そうと思っていたボールは意外な場所で見つかった。
こんなに近くにあったのに、
こんなに見えるところにあったのに…
どうして今までわからなかったんだろう…
「楓が持ってたんだ、このボール」
「あぁ。ずっと持ってた。使わなくなってから、ずっと」
「ずっと…?」
「あぁ、ずっとだ」
ずっと…
流川の声が頭の中に留まる。
そして、あの日の自分の声が重なってくる。
『ずっと…』
『ずっと…』
『ずっと、一緒に…』
初めてバスケと出会った帰り道、手を繋ぎながら家へと向かう道で、自分が言った言葉。
あの時の情景が頭の中で鮮明に思い出された。
『楽しそうだね、バスケット』
『二人でずっと一緒にバスケットしようね!』
二人で、
ずっと、
一緒に…
あの時の自分の純粋な気持ちに心が締め付けられた。
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