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#23 Reset me

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駅から歩いて20分程の所にある閑静な住宅地、街灯と住宅の灯りが夜道を明るく照らす。

その住宅街の中に流川の家があり、玄関の照明が静かに馨を出迎える。

庭の奥を見ると家にある自転車が全て揃っていた。


(流石に帰ってきてるか…)


ほぼ毎日の様に遅くまで体育館に居残って自主練習している流川だが、当然ながら既に帰宅している時間だ。

さて…

遅くなると連絡をしてあるとはいえ、制服姿の女の子が一人、夜道を歩いて帰ってくるのだ。

母の心配が怒りに変わっている可能性は高い。

考えていた時間より帰りが遅くなってしまった気負いのせいか、そっとドアノブに手をかけ、大きな音を立てないように恐る恐る玄関の扉を開ける。


「ただいまぁ…」


夜の静かな時間も相まって、声が小さくなる。

これだけ静かに帰ってきたのだから誰も気づかないだろう、そう思いながら靴を脱いでいると玄関脇にあるリビングの扉が開いた。


「あら、おかえり」


母の葵がリビングの扉を開け、馨を出迎えた。

流石、耳ざとい…母には気づかれてしまった。

小さな事にもすぐに気付く葵の勘の鋭さは関心もするが、それよりもその察しの良さに対する驚きの方が多い。

声をかけられドキッとしたものの、そのトーンに怒っている感情は感じられず、馨は少し安堵する。

どうやら帰宅時間は葵の許容範囲内だったらしい。


「ごめんなさい、遅くなって」


そう言って葵と並んでリビングに入る。


「友達とそんなに盛り上がってたの?」

「それもあるんだけど、本屋にも寄ってたから…」


空のお弁当箱をカバンから取り出し、キッチンへと持っていく。


「お父さんはまた残業?」


定位置となっている一人掛けソファに父の樹の姿はなかったが、エンジニアという職業柄、残業の多い樹がこの時間に不在なのは珍しい事ではなかった。


「そろそろ帰って来ると思うけどね」


苦笑い混じりに葵はキッチンの蛇口をひねり、洗い物を始める。


「お風呂、先に入るなら今のうちにね」

「うん」


キッチンのカウンター越しに時計を見ると残業明けの樹がいつ帰ってきてもおかしくない時間だった。

きっと疲れて帰ってくるに違いない。

そんな父の為に今のうちにお風呂に入っておいた方がよさそうだ。


「そうだ、馨。今日楓に何かあった?」

「ん?なんで?」


馨はキッチンを出ようとした足を止める。


「帰ってくるなりずーっとムスッとしてるの。聞いても『別に』って言うだけだし。まぁ、楓の仏頂面と反応の悪さはいつもの事なんだけど…学校で何かあった?何か知ってる?」

「学校で?」


学校で不機嫌になるような出来事があったとすれば…


「……あ」


思い当たるのは自主練習をせずに桜木と出かけた事だろうか。

自主練習をしなかった事に対してなのか、桜木と出かけた事に対してなのか…

いや、これは両方に対してだろう。


(……)


馨の反応を見た葵は「これはケンカでもしたな」と確信した。


「少し前に上に行ったから、顔出すのよ」

「はーい」


ぶっきらぼうに返事しながらリビングを出ていく馨に、やれやれと葵は見送った。


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