#23 Reset me


一度、馨に聞いた事がある。

『まだ2年前の事を気にしているのか、それともアメリカで何かあったのか』

と。

2年前の事…

流川自身も思い出すだけで、煮えくり返るような感情が湧き出てくる。

うまく行っていた二人の思いや関係が一気に壊された、先輩だった稲村の言葉。


『お前が、男だったらよかったのに』


男女の力の差を意識した事はあった。

でもそれは全て受け入れてきた。

馨もその差をバネに踏ん張っていた。

その差を残念だとかいうマイナスの感情は一切なかった。

互いに理解しあってプレイしてきたはずだった。

あの日…稲村がおかしな事を言わなければ、何も起こらなかった。

あの日の決勝戦さえ…

あの試合に勝ってさえいれば、何も変わらなかった。

勝ってさえいれば…

何も変わらずプレイしてこれたのに…

チームメイトとしてプレイ出来なくても、それでよかったのに。

あの日、それが壊れてしまった。


馨の口からは未だに何も語られない。

アメリカ行きを決めた理由も、アメリカでの出来事も…

馨に聞いた時、『もう少し待って』と言っていた。

言えないのはまだ話したくないのだろう。

無理に問いただせば解決できるかもしれない、でもそれは自分自身の欲求を満たすだけの勝手な都合だ。

それでは身勝手だ。

でも…そう思いつつも、やはり話してほしいという思いもある。

心の中に留めておくのなら、全て吐き出してしまえばいいのに…

自分なら受け止めて理解してやれるのに…

何も言えないのは、それほど深い傷なのだろうと憶測できる。

…無理もない

自分自身を否定されたようなものだ。

それを自分の口から改めて話すというのは酷な事だ。

でも、何とかしてやりたい。

流川の中で「でも…」という思いが積み重なっていく。

何とか、何とかしなければいけないのに…

再びシャワーの蛇口をひねる。

頭から降り注ぐお湯は、ゆっくりと流川の体から泡を流し落としていく。

目を瞑り、流れるお湯の感触を確かめる。

こうしているとシャワーのお湯と共に頭の中でグルグルと渦巻いている事が全部流れていくようだった。



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