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#23 Reset me


鞄を持ち直し、広場を後にする。

今度は走らずに歩いて家に向かう。

あの広場から家までのこの道は何度通っただろう。

親にボールを買ってもらってからは、ほぼ毎日通っていたかもしれない。

最初はシュートする事から始まった。

早くシュートを打ちたくて、一つのボールを取り合ってケンカした事もあった。

ミニバスを始めた頃には1on1をするようになった。

いつでも一つのボールを取り合った。

屋外で使っていたボールはどんどん汚れていった。


(そういえば、あのボール、どこにいったかな…)


古いボールだ、もう処分してしまったかもしれない。

でも、もしかしたら物置小屋にしまってあるかもしれない。


(今度探してみようか…)


まずは親に在り処を聞かなければ…


(そういえば、帰り道はいつも手を繋いで帰ってたっけ…)


今では到底不可能な行動だな、と思ったら可笑しくなって思わず吹き出してしまった。

昔を思い出して懐かしい気持ちになった馨の心は先程のトゲトゲした感情が嘘のように吹き飛んでいた。

遠くでバイクのエンジンを吹かす音が聞こえる。


(今日もやかましいな…)


笑顔が僅かに苦笑いになる。

家まではあともう少し、着いたら不貞腐れているであろう、彼に声をかけなければ。

馨は歩く速度を少し早めて家へと向かった。


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流川は乗ってきた自転車を玄関脇に丁寧に止める。

すぐに汗を洗い流そう…

そう思いながら流川は玄関を開ける。


「ただいま…」

「あ、おかえりなさい」


母の葵がすぐに廊下に顔を出した。


「洗い物、ちゃんと出しておいてね」

「あぁ…」


別に言われなくてもやるのに…

そう思いながら浴室の横にある洗濯籠にスポーツバッグの中の練習着をバサバサと放り込む。


「シャワー浴びるんでしょ?もうすぐ夕飯出来るから、早めにね」

「わかった…」


キッチンからの母の声に、聞こえたかどうかわからない程の声で返事をする。

すぐに着替えを取りに行き、浴室へ向かい服を脱ぎ捨てる。

シャワーヘッドを固定したまま蛇口を一気にひねると冷たい水が勢いよく頭にかかる。

その温度の冷たさに一瞬全身が硬直するが、温度が徐々に上がって行くのを感じるとその力みは解れていく。


全身を伝うお湯の流れに体の神経を集中させる。


(気持ちいい…)


頭のてっぺんから顔を伝い、胸や背中、足に流れていくお湯の感触を目を瞑って感じ取っていく。

無になっていた頭の中で今日の出来事がふっと思い出される。

…今日はいつもとは違う時間の流れだった。

個人練習には宮城が付き合ってくれたし…

馨はどあほうのヤツと一緒に先に帰ってしまうし…

極めつけだったのは帰り道でそのどあほうと鉢合わせしたということ。

なんとも最悪で実に無駄な時間を過ごしてしまった。

思い出さなくてもいいのに、頭の中で桜木は自分勝手に発言する。


『テメーで考えろ』

『本っ当に性格捻くれてんな』

『人の事なんか気にしてねぇ、大馬鹿ヤロウ』


桜木の言葉が頭の中で再生される。


(くだらねぇ…)


イラッとする流川の気持ちに反して、頭の中の桜木はまた発言する。


『こっちは考え過ぎてイライラしてんだよ』


(誰が…)


誰がイライラしてるって?

それはこっちの台詞だ。


(ふざけやがって、あんにゃろう…)


考えているに決まっている。

放っておける訳がない。

だからこそ何も出来ない、何もしてやれない自分に腹が立って仕方がないというのに。

流川の中でイライラが募っていく。

俯いたまま、瞑っていた目を開ける。

お湯が足を伝って流れていくのが見える。

お湯を止め、シャンプーを手に取りイライラを洗い落とすかのようにガシガシと頭を洗っていく。

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