#23 Reset me


日がすっかり落ち、体育館の照明が辺りを薄っすらと照らしている。

自主練習をしていた部員たちは時間が経つに連れて次第に帰っていき、今は自分一人だけ。

フロアを叩くボールの音が体育館に響き渡る。

誰もいないフロアは神経を一層研ぎ澄ませてくれる。

気持ちが一つに集中していくのが堪らなく快感に感じる。

試合や普段の練習のような心の奥底から燃え上がる感覚だが、今は全く違った空気感だ。

ピンと一本の糸を張ったような…試合とは違う緊張感は自分の好きな感覚だ。

シュートを打てば手の指先はピリピリとした感覚が伝わってくる。

ダンクをすればその衝撃が、より一層ダイレクトに全身を駆け巡る。

リングから手を離すと、ゴールの軋む音だけが聞こえてくる。

僅かに息を整え、転がるボールを拾い上げたところで背後に人の気配を感じた。

誰かと思って振り返ると身支度を終えた宮城が扉の前に立っていた。

いつからいたのだろうか…


「相変わらず、毎日ご苦労なこって。まだ残ってくのか?」


宮城はフロアに一歩入り、肩にかかっていたスポーツバッグを重たそうに床に置くと、扉に寄りかかり腕を組む。


「ま、無理だけはすんなよ。程々にな」

「…うす」


返事をしたところでフリースローラインからボールを構え、打つ。

放たれたボールはリングに当たりつつもネットをくぐっていった。


(ち、当たったか…)


流川は心の中で舌打ちする。


(………)


転がっていくボールの行方を宮城は黙って見ていた。

シュートを決めたものの、どこか不満げな流川を見て片眉を上げ、ニヤリと笑う。


「…今日は、振られちまったな」

「…?」

「花道に持ってかれちまったな、馨ちゃん」

「むっ…」


宮城が見下ろしような感じで意味深に笑う。

普段ならこのフロアには桜木と馨も残って練習を行っている。

しかし今日その二人はいない。

馨曰く、パァッと飲んでくるらしいが…


「別に、カンケーねーです」

「拗ねんなって」

「拗ねてねーです」


別に気になんかしていない。

どこに行こうと勝手だが、何か気に入らない。

…気に食わない。

そういう心境をあからさまに表情に出している流川に、宮城は少し可笑しくなった。

一見ただの無表情なやつなのに、一歩踏み込むとコイツは単純なところがあってわかりやすい。


(そういうのを拗ねてるって言うんだよ)


言葉にはしなかったものの、可笑しくなってしまった気持ちが表情として現れてしまう。


「先輩こそフラレたじゃないすか」

「ハァ?」

「誘ったのに、フラレてた」

「!!」


宮城は部活終了後、彩子に「一緒に帰ろう」と誘っていたが、あっさりと「用事があるから」と断られていたのを流川は見た。

その鮮やかで見事なかわし方に思わず「流石だ」と唸る程だった。


「そんな言い方すんじゃねぇっ!今日はアヤちゃんの都合が悪かっただけで、俺はアヤちゃんにフラレてなんかねぇ!」

「でも、事実じゃないすか」

「バカヤロウ!言い方ってもんがあんだろうが!」


宮城は思わず涙ぐむ。


(やっぱ生意気なヤローだ…)


宮城は一瞬でも気を許したちょっと前の自分を殴ってやりたい気持ちになった。

今も必死に抗議しているというのに、ため息をついてフロア脇に転がったボールを取りに行ってしまっている。


「先輩…」

「なんだ!!!」

「帰るんじゃなかったんすか」

「うるせー!」


宮城の中で何かがプツンと切れた。

本っっっ当に生意気なヤロウだ。

コイツ、俺を先輩として扱ってない。

自分の方が背が高いからってバカにしてんのか?

そういう思いがメラメラと燃え上がってくる。


「流川!!」

「…?」

「テメーの動きがどんなもんか、神奈川No.1ガードの俺が、しかと見てやるよ!!」


宮城はズンズンと足音を立てながらフロアに上がりこみ、コート中央付近でドカッと座り込む。


「俺は鬼キャプテンだからな!下手な動きなんかしたら…容赦しねぇからな!」

「…やれやれ」


横から野次を入れられるのは正直嫌だったが、自分の動きを見ててくれるらしい。


(ま、別にいーけど…)


鼻息荒い宮城を一瞥したのち、流川はドリブルを開始した。


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