#23 Reset me
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桜木は体を硬直させつつも落ち着きなくソワソワしていた。
馨に連れられるがままに来た駅前のファーストフード店。
窓際にある二人用の小さなテーブルの片側で挙動不審になりつつも小さくなって座っていた。
向かい側に座る予定の馨はカウンターで注文をしている。
周囲をチラリと見回すと満席で賑わっている。
仕事帰りと思われるスーツ姿の男性や、友達同士で盛り上がる高校生。
そしてカップルが小さく笑いながら会話しているのが見える。
(カ、カップル…!)
桜木の頬が熱を帯びてくる。
何を話しているかは他の音にかき消されて、こちらには聞き取れない。
でも、楽しい内容である事は表情を見れば一目瞭然。
「花道お待たせー!」
馨の声が周囲に響く。
と同時に緊張からの不意打ちを食らった桜木の体が跳ねる。
周りの賑やかさに違和感なく溶け込む程の大きさの声だったが、緊張で神経を張り詰めていた桜木には刺激が大きい。
「お腹空いたでしょ?さっ、遠慮しないで食べて!」
持ってきたトレイにはハンバーガーにポテトとドリンクが2つずつ乗せられている。
「はい、こっちの大きいバーガーが花道の。ポテトは大きさ同じだから適当につまめばいいよね」
「あっ、ありがとうございます!」
緊張した手つきでポテトに手を伸ばす。
桜木は頭の中でずっとグルグルと思いを巡らせていた。
周りから見たら自分達はどう見られているのだろうか。
視界に入るカップルと同じように、自分達も「そう」思われているのだろうか。
以前晴子とバッシュを買いに来た時はその状況に浮かれてそこまで意識していなかったが、今日は意識するのはよそうと思えば思う程、周りの視線が気になって仕方がない。
違うと思うのに、自分が見られているような気がしてならない。
実際、桜木は周囲の目線を惹いていた。
高身長で真っ赤な坊主頭の学ラン…ワルにしか見えない風貌の男がソワソワしているのだ。
目に止まらない訳がない。
(味が、わからん…!)
ポテトを口にするも味覚がない。
馨もポテトを一口噛りながら辺りを見回し、ポツリと呟く。
「私達も付き合ってるように見えるのかしらね、桜木クン…」
「!!!!」
桜木は思わず跳ね上がり、椅子をガターンと大きな音を立てて倒す。
解ってて桜木をからかった馨だったが、予想以上の慌てぶりに、してやったりとククッと笑う。
「動揺しすぎ!純粋だねー、花道は」
「かっ、からかわないで下さいよ!」
「あははっ、ごめんごめん!」
笑いを堪えていたのか涙目になりながら小さく笑う馨。
涙を軽く拭いながらトレイを指差す。
「ほら、ハンバーガーは熱いうちに食え、だよ」
桜木はちょいちょいと指差されたハンバーガーを「では…いただきます」と手に取り、かじる。
部活終わりで空腹だった桜木は4口ほどでペロリと食べきってしまった。
馨も包みを半分開け、かじろうとするもその手を止め、桜木に差し出す。
「これ、花道にあげる」
「いーんすか!?」
1個のハンバーガーだけでは到底足りなかった桜木はパッと笑顔になったものの、すぐ様思い留まる。
「いや、でもそれでは馨さんの分が…」
「あれだけじゃ足りないでしょ?」
確かに部活終わりでお腹はペコペコなのだが…
しかし奢られている立場としては素直に受け取れない。
「いや、しかし…」
「何、私のハンバーガーが食べられないっての?」
低い声でギロリと凄みを出す馨に桜木はビクッと体を強張らせる。
体感した事はないがこんなやり取り、社会人の世界であったように思う。
「受け取れないとでも?」
「いっ、いただきます!」
目の前の包を両手で受け取り、先程と同じようにあっという間に食べてしまった。
「すみません、馨さんの分まで…」
豪快に食べ切った割にしょんぼりとする桜木。
「いいのいいの。花道の食いっぷり見てたら私の分もあげたくなっちゃった。それに練習凄く頑張ってるし」
「そ、そーすか?」
「うんうん、よく頑張ってるよ。やっぱ元々飲み込みが早いから日に日に良くなってきてるし」
「…やっぱり!?」
桜木の表情が見るからに明るくなっていく。
「流石天才桜木」とブツブツ呟いている。
「…花道は本当に素直だなぁ…きっとそれが皆を惹き付けるんだろうねぇ」
我に返った桜木の目の前に頬に手を当て、肘をつけながら上目遣いで覗き込む馨の姿があった。
不意に見せた女の子らしい仕草に思わずドキリとする。
「どうしたら花道みたいになれんの?」
「はい?」
「その素直な感情、分けて欲しいんだけど」
分けてくれ、と言われてもどうしたらいいものか判らない。
そんな方法があるのなら教えて欲しいくらいだ。
「馨さんは素直でいい人だと思いますけど…」
返事に困った桜木は当たり障りのない回答をする。
「…案外、そうでもないよ」
馨が視線を反らして静かに嘲笑う。
「…む?」
違和感を覚えた。
確証…には至らないが、どこかしっくりこない。
思考のズレがすんなり受け入れられない…とにかく「おかしい」ということを感じることができた。
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桜木は体を硬直させつつも落ち着きなくソワソワしていた。
馨に連れられるがままに来た駅前のファーストフード店。
窓際にある二人用の小さなテーブルの片側で挙動不審になりつつも小さくなって座っていた。
向かい側に座る予定の馨はカウンターで注文をしている。
周囲をチラリと見回すと満席で賑わっている。
仕事帰りと思われるスーツ姿の男性や、友達同士で盛り上がる高校生。
そしてカップルが小さく笑いながら会話しているのが見える。
(カ、カップル…!)
桜木の頬が熱を帯びてくる。
何を話しているかは他の音にかき消されて、こちらには聞き取れない。
でも、楽しい内容である事は表情を見れば一目瞭然。
「花道お待たせー!」
馨の声が周囲に響く。
と同時に緊張からの不意打ちを食らった桜木の体が跳ねる。
周りの賑やかさに違和感なく溶け込む程の大きさの声だったが、緊張で神経を張り詰めていた桜木には刺激が大きい。
「お腹空いたでしょ?さっ、遠慮しないで食べて!」
持ってきたトレイにはハンバーガーにポテトとドリンクが2つずつ乗せられている。
「はい、こっちの大きいバーガーが花道の。ポテトは大きさ同じだから適当につまめばいいよね」
「あっ、ありがとうございます!」
緊張した手つきでポテトに手を伸ばす。
桜木は頭の中でずっとグルグルと思いを巡らせていた。
周りから見たら自分達はどう見られているのだろうか。
視界に入るカップルと同じように、自分達も「そう」思われているのだろうか。
以前晴子とバッシュを買いに来た時はその状況に浮かれてそこまで意識していなかったが、今日は意識するのはよそうと思えば思う程、周りの視線が気になって仕方がない。
違うと思うのに、自分が見られているような気がしてならない。
実際、桜木は周囲の目線を惹いていた。
高身長で真っ赤な坊主頭の学ラン…ワルにしか見えない風貌の男がソワソワしているのだ。
目に止まらない訳がない。
(味が、わからん…!)
ポテトを口にするも味覚がない。
馨もポテトを一口噛りながら辺りを見回し、ポツリと呟く。
「私達も付き合ってるように見えるのかしらね、桜木クン…」
「!!!!」
桜木は思わず跳ね上がり、椅子をガターンと大きな音を立てて倒す。
解ってて桜木をからかった馨だったが、予想以上の慌てぶりに、してやったりとククッと笑う。
「動揺しすぎ!純粋だねー、花道は」
「かっ、からかわないで下さいよ!」
「あははっ、ごめんごめん!」
笑いを堪えていたのか涙目になりながら小さく笑う馨。
涙を軽く拭いながらトレイを指差す。
「ほら、ハンバーガーは熱いうちに食え、だよ」
桜木はちょいちょいと指差されたハンバーガーを「では…いただきます」と手に取り、かじる。
部活終わりで空腹だった桜木は4口ほどでペロリと食べきってしまった。
馨も包みを半分開け、かじろうとするもその手を止め、桜木に差し出す。
「これ、花道にあげる」
「いーんすか!?」
1個のハンバーガーだけでは到底足りなかった桜木はパッと笑顔になったものの、すぐ様思い留まる。
「いや、でもそれでは馨さんの分が…」
「あれだけじゃ足りないでしょ?」
確かに部活終わりでお腹はペコペコなのだが…
しかし奢られている立場としては素直に受け取れない。
「いや、しかし…」
「何、私のハンバーガーが食べられないっての?」
低い声でギロリと凄みを出す馨に桜木はビクッと体を強張らせる。
体感した事はないがこんなやり取り、社会人の世界であったように思う。
「受け取れないとでも?」
「いっ、いただきます!」
目の前の包を両手で受け取り、先程と同じようにあっという間に食べてしまった。
「すみません、馨さんの分まで…」
豪快に食べ切った割にしょんぼりとする桜木。
「いいのいいの。花道の食いっぷり見てたら私の分もあげたくなっちゃった。それに練習凄く頑張ってるし」
「そ、そーすか?」
「うんうん、よく頑張ってるよ。やっぱ元々飲み込みが早いから日に日に良くなってきてるし」
「…やっぱり!?」
桜木の表情が見るからに明るくなっていく。
「流石天才桜木」とブツブツ呟いている。
「…花道は本当に素直だなぁ…きっとそれが皆を惹き付けるんだろうねぇ」
我に返った桜木の目の前に頬に手を当て、肘をつけながら上目遣いで覗き込む馨の姿があった。
不意に見せた女の子らしい仕草に思わずドキリとする。
「どうしたら花道みたいになれんの?」
「はい?」
「その素直な感情、分けて欲しいんだけど」
分けてくれ、と言われてもどうしたらいいものか判らない。
そんな方法があるのなら教えて欲しいくらいだ。
「馨さんは素直でいい人だと思いますけど…」
返事に困った桜木は当たり障りのない回答をする。
「…案外、そうでもないよ」
馨が視線を反らして静かに嘲笑う。
「…む?」
違和感を覚えた。
確証…には至らないが、どこかしっくりこない。
思考のズレがすんなり受け入れられない…とにかく「おかしい」ということを感じることができた。
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