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#23 Reset me


脳裏に色んな出来事が浮かび上がってくる。

忘れたいけど忘れられない事が。

区切りはつけた、そう思っていてもこうやって思い出す度に心が沈んでしまうのは吹っ切れていない証拠なのだと思う。

思い出したくない、でも、どうしても思い出してしまう。



「くそー、あのキツネめ…」


ハリセンを食らった後頭部をさすりながら、練習を開始しようと桜木は馨の元へと歩を進める。

元気よく彼女の名前を呼ぼうとするも、その主の表情を見たところで最初の一文字目を半分言いかけ、言葉を詰まらせる。

壁にもたれ掛かりながら腕を組んで体育館を眺めている。

鋭い目線にキュッと結ばれた口元。

こういう表情をしていると流川そっくりだとつくづく思う。

誰も寄せ付けぬ空気を放つ馨に思わず息を飲む。

だが、このまま声をかけないわけにもいかない。

桜木は少し緊張しつつ恐る恐る声をかける。


「あのう…馨、さん?」


控えめだったが確実に耳に届く音量で呼んだものの、馨の反応はない。

なんだか空回りをしてしまったような気恥ずかしさを感じ、それを誤魔化すため、しなくてもいい咳払いをする。

そして、よおし、と心の中で一呼吸置いた後、自分の普段の音量であろう声量でもう一度呼ぶ。


「馨さん!!」

「うわぁ!!」


突然大きな声が飛んできて馨の体が跳ね上がる。

それに合わせて桜木の体も跳ね上がり、反射的に「すみません!」と叫ぶ。


「なんだ、花道か…ビックリした…」

「どうしたんすか、ボーッとして」

「ああ、ごめん。ちょっと考え事をね…」

「カンガエゴト…」


桜木の脳裏に馨の転校初日の出来事が浮かんだ。

馨の周りに群がる女子生徒…

それを無視してだんまりのままの馨の横顔…

その横顔は先程の馨と同じものだった。


「もしや…また何かあったんすか?」

「何か?」

「ほらええと、悩み、とか」

「ナヤミ?」


桜木の言葉に馨はうーんと顎に手を添える。


(悩み、か…)


悩み事、ないわけではない。

まずはこの湘北高校にきてから…いやそれより前からかもしれない、ずっと心に引っかかっていた事。

それは「流川との勝負」

初めて体育館に来て急遽練習試合に参加した時も、部屋で二人で話していた時も、有耶無耶にして避けてきた。

自分よりパワーと高さがある相手に対しての恐怖心が抜けず、断った。

その理由を言わぬまま…

『ベストな状態のお前と勝負したい』

そう、流川に言われた。

今の自分はベストな状態ではない…そんな自分が勝負をしていいわけがない。

堂々と勝負できるのだろうか…こんな精神状態で…

引っかかっているのはそれだけではない。

アメリカに行った理由もまだ言えていない。

「ちゃんと話そう」「もっと強く在ろう」そうアメリカで決めたはずなのに…

チラリと視線を桜木に移すと、どうしたらいいか判らず挙動不審気味にソワソワしていた。


「あの、やはり何か問題でも…」

「問題ねぇ…」

「また何かありましたらこの桜木に」

「花道に?」


馨は少し考えた後、独り言のように呟いた。


「じゃあ気晴らしに部活終わったら付き合ってもらおうかな…」


馨は一人納得したようにうんうんと頷く。


「よし、今日はパァっとやろう!ジュースくらい奢るからさ!」

「え、今なんと?」

「何?ジュースじゃ足りないの?はーっ…仕方ないなぁ…じゃあマックにでも行こうか!」

「いや、そうではなく…」

「よし!決まったところで練習!練習!」


桜木が言い終わるのを聞かず、スタスタと歩き出す背中に向かって桜木は少し青くなる。


「やはり、何か問題が…」


空元気気味に見えた馨の背中を見て、謎の使命感を覚えた桜木であった。


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