#23 Reset me
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忘れたい日の事ばかりやけに覚えている。
フッと目を開けるとカーテンを通して太陽の光が部屋を薄らと照らしているのが見えた。
思わず自分の居る場所は自室だと確認してムクリと起き上がる。
長い夢を見たようだ。
今まで起こった嫌な出来事が全てこの一つの夢に詰まっていた。
もう、思い出したくないのに…「忘れるな」と言わんばかりにしっかりと脳裏に刻み付けていく。
思い出したくないところは夢の中でも見たくないのに…
モヤモヤとした気分を払拭するべく、馨は勢いよくカーテンを開けた。
一気に太陽の光が自分を照らす。
(眩し…)
今日は朝から晴れている為陽の光が強い。
たまらず目を細める。
暖かな光が全身を包み込む。
その暖かさを浴びていると体の細胞一つ一つが目覚めていく感じだ。
水を一杯飲もうと、まだ少し重たさが残る目を擦りながら自室を出る。
ついでに、ふと目に止まった静まり返った隣の部屋の扉を、ノックもせずそっと音を立てないように薄く開ける。
中を見た瞬間、その状況を瞬時に理解した。
「…やられた!!」
思わず声を上げ、今度は遠慮なしに扉を閉め、再び自室に戻る。
「あのヤロウ!」
外に出ても恥ずかしくないようパッと着替えた後、勢いよく階段を駆け下りる。
「置いていったな!」
流川の部屋は空だった。
カーテンも開いていたし、布団はめくれたまま。
間違いない。彼は一人で自主練に出かけたのだ。
玄関を開けて外に置いてある自転車に手をかけ、出そうとした時、丁度家の前に辿り着いた流川と遭遇した。
「お」
なんとも偶然、という反応をする顔を馨は見据える。
「…ちょっと、ドコ行ってたの?」
「…ちょっと、海…」
その視線で何となく馨の心境が読めた流川は少しだけバツが悪そうに答える。
馨はキッと睨みつけ、
「置いていくなんてズルイ!」
流川の鼻先に人差し指を突きつける。
「私も一緒に走るって言ったのに!」
「一緒に…」
その時流川の頭の中で江ノ島で見た恐怖映像が脳裏に蘇る。
少し錆び付いた南京錠に書かれた「ずっと一緒だよ♪」の文字…
「!!!」
ゾクリとした感触が再び全身を駆け巡っていく。
思い出したくないものを思い出してしまった。
「…イヤだ」
「なんで!!」
思わず視線を反らして答えてしまった。
何故、と言われると正当な理由ではないような気もしないでもないが…とにかく何となくイヤな物はイヤなのだ。
「いいじゃん!私もずっと一緒に走る!」
「……」
コイツは…
本人に悪気はないのは十分承知。
そこまで強い意志で言われるのは悪い気分ではない。が。
今はその単語を聞くたびに拒否反応の方が先に出てしまう。
「……」
「…なに、不都合でもあるの?」
「いや…ずっと、は、イヤだ」
「はぁ?」
どうしてもあの南京錠の恐怖映像が頭に残ってしまって、意味不明な返答をしてしまう。
「どうしても?」
「…どうしても」
「………」
無言で睨みを効かせる馨にたじろいでしまう。
こういう意志の強い視線は嫌いではない。
無下にはしたくない。
少しの間考えた後、答えを出す。
「じゃぁ…まぁ…たまになら」
「む…たまにか…」
少し折れたものの頑固な男だ。
でも、一人で黙々と走る気持ちよさは馨にも判る。
何も考えず、心を空っぽにして、ただひたすらに走る気持ちよさ…
確かにそれは邪魔できなかった。
「仕方ない。じゃあ、たまにで手を打つか」
馨はそう言って、んっと腕を伸ばす。
頑固なのはお互い様。
100%といかなくても半分折れたという形で手を打つことにした。
「でもさ、今度は一緒に走ろう?」
「おお」
自転車を片付け、二人で家へと入る。
「ねぇ、今日はどこまで走ったの?」
「……え」
『江ノ島』という単語を一瞬口にしそうになったものの直ぐさまその先の言葉を飲み込む。
「や、何でもねー」
「…アヤシイ…さてはいつもと違うコースでも走ったね?」
「……」
スルドイ…という気持ちを悟られないよう無言になってしまったが、馨には逆効果だった。
「やっぱり!違うコース走ったんだ!どこ?次も走る?」
次もあのコースを走るなんて今の心情では到底無理。
流川は全部ひっくるめて、
「イヤだ」
と答えた。
馨の押し問答は続いたが、流川は先程の一言のみで強引に押し切っていった。
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忘れたい日の事ばかりやけに覚えている。
フッと目を開けるとカーテンを通して太陽の光が部屋を薄らと照らしているのが見えた。
思わず自分の居る場所は自室だと確認してムクリと起き上がる。
長い夢を見たようだ。
今まで起こった嫌な出来事が全てこの一つの夢に詰まっていた。
もう、思い出したくないのに…「忘れるな」と言わんばかりにしっかりと脳裏に刻み付けていく。
思い出したくないところは夢の中でも見たくないのに…
モヤモヤとした気分を払拭するべく、馨は勢いよくカーテンを開けた。
一気に太陽の光が自分を照らす。
(眩し…)
今日は朝から晴れている為陽の光が強い。
たまらず目を細める。
暖かな光が全身を包み込む。
その暖かさを浴びていると体の細胞一つ一つが目覚めていく感じだ。
水を一杯飲もうと、まだ少し重たさが残る目を擦りながら自室を出る。
ついでに、ふと目に止まった静まり返った隣の部屋の扉を、ノックもせずそっと音を立てないように薄く開ける。
中を見た瞬間、その状況を瞬時に理解した。
「…やられた!!」
思わず声を上げ、今度は遠慮なしに扉を閉め、再び自室に戻る。
「あのヤロウ!」
外に出ても恥ずかしくないようパッと着替えた後、勢いよく階段を駆け下りる。
「置いていったな!」
流川の部屋は空だった。
カーテンも開いていたし、布団はめくれたまま。
間違いない。彼は一人で自主練に出かけたのだ。
玄関を開けて外に置いてある自転車に手をかけ、出そうとした時、丁度家の前に辿り着いた流川と遭遇した。
「お」
なんとも偶然、という反応をする顔を馨は見据える。
「…ちょっと、ドコ行ってたの?」
「…ちょっと、海…」
その視線で何となく馨の心境が読めた流川は少しだけバツが悪そうに答える。
馨はキッと睨みつけ、
「置いていくなんてズルイ!」
流川の鼻先に人差し指を突きつける。
「私も一緒に走るって言ったのに!」
「一緒に…」
その時流川の頭の中で江ノ島で見た恐怖映像が脳裏に蘇る。
少し錆び付いた南京錠に書かれた「ずっと一緒だよ♪」の文字…
「!!!」
ゾクリとした感触が再び全身を駆け巡っていく。
思い出したくないものを思い出してしまった。
「…イヤだ」
「なんで!!」
思わず視線を反らして答えてしまった。
何故、と言われると正当な理由ではないような気もしないでもないが…とにかく何となくイヤな物はイヤなのだ。
「いいじゃん!私もずっと一緒に走る!」
「……」
コイツは…
本人に悪気はないのは十分承知。
そこまで強い意志で言われるのは悪い気分ではない。が。
今はその単語を聞くたびに拒否反応の方が先に出てしまう。
「……」
「…なに、不都合でもあるの?」
「いや…ずっと、は、イヤだ」
「はぁ?」
どうしてもあの南京錠の恐怖映像が頭に残ってしまって、意味不明な返答をしてしまう。
「どうしても?」
「…どうしても」
「………」
無言で睨みを効かせる馨にたじろいでしまう。
こういう意志の強い視線は嫌いではない。
無下にはしたくない。
少しの間考えた後、答えを出す。
「じゃぁ…まぁ…たまになら」
「む…たまにか…」
少し折れたものの頑固な男だ。
でも、一人で黙々と走る気持ちよさは馨にも判る。
何も考えず、心を空っぽにして、ただひたすらに走る気持ちよさ…
確かにそれは邪魔できなかった。
「仕方ない。じゃあ、たまにで手を打つか」
馨はそう言って、んっと腕を伸ばす。
頑固なのはお互い様。
100%といかなくても半分折れたという形で手を打つことにした。
「でもさ、今度は一緒に走ろう?」
「おお」
自転車を片付け、二人で家へと入る。
「ねぇ、今日はどこまで走ったの?」
「……え」
『江ノ島』という単語を一瞬口にしそうになったものの直ぐさまその先の言葉を飲み込む。
「や、何でもねー」
「…アヤシイ…さてはいつもと違うコースでも走ったね?」
「……」
スルドイ…という気持ちを悟られないよう無言になってしまったが、馨には逆効果だった。
「やっぱり!違うコース走ったんだ!どこ?次も走る?」
次もあのコースを走るなんて今の心情では到底無理。
流川は全部ひっくるめて、
「イヤだ」
と答えた。
馨の押し問答は続いたが、流川は先程の一言のみで強引に押し切っていった。
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