#23 Reset me
小さな段で出来た階段を時に一段抜かしで駆け上がる。
一通り走り込んだ後の階段は少しキツいが、スピードを緩める事なく登っていく。
呼吸がどんどん苦しくなっていく。
それでも目の前に続く石段を駆け上がっていく。
この石段で最後だろうか…
階段を登り切るとその先には階段はなく、ここが頂上付近だということがわかる。
平らな場所が広がり、先程見た塔が目の前に迫る。
徐々に速度を緩めていき、足を止める。
膝に手を置き、乱れる呼吸と戦っていると汗が一気に吹き出てくる。
額の汗が顔を伝い、落ちる。
今までここを走った事はなかったが、この時間なら人はいないし早朝にならこの場所を走るのはいいかもしれない。
汗で張り付いた髪を振り払うように顔を振り、視線を塔へと移す。
建設中の塔がそびえ立つ。
隣には今まで立っていた塔も見える。
目の前で見るとその高さが実感できた。
ふと、考える。
塔には登ったことはないが、あそこから見える風景はどのようなものだろうか。
どんな風景が広がっているのだろう。
あの場所から見える海は、街並みはどんな風に見えるだろう…
自分が見たことのない風景を見られる場所が、あそこにはある。
見慣れた風景もいいけれど、新しい風景も見てみたい。
自分の知らない世界を、この目で…
新しい塔が完成したら登って見てみようか…
そう思いながら流川は来た道を引き返した。
上りは一気に登った分、下りはゆっくりと散策を兼ねて歩いて降りることにした。
海が見えないと本当に山道を歩いているようだ。
年代の趣を感じる道は歩いていると心が落ち着いてくる。
途中、少し錆び付いた鉄柵の所々に何かかかっているのに気づく。
「??」
南京錠だ。
ナゼこんなところに…と、足を止めて覗き込むように見る。
そこには油性ペンでしっかりと書かれた文字。
男の名前と女の名前の間にハートマーク…
そして
『ずっと一緒だよ♪』
と念入りに刻み込まれていた。
「ぉおっ!?」
声が漏れ、思わず一歩後ずさりしてしまった。
その後、ゾクリとした妙な感覚が全身を一気に駆け巡った。
(なんだ、コレは…)
先程は全く気付かなかったが、よく見るといくつもの南京錠が見える限りの鉄柵にかけられている。
それの一つ一つに何やら似たようなものが書いてある。
その内容はちゃんと見なくとも、さっきのものと同じような事が書いてあることは容易に想像できた。
(読みたくもねぇ…)
南京錠は新しい物もあれば、長いこと潮風に当たっていたせいか茶色く錆び付いている物もあった。
なぜだろう…見ているとロマンチックというものを軽く通り越して怨念のようなものを感じる。
そもそも「南京錠」という代物が恐ろしさを助長させている。
木々に囲まれているせいか少し薄暗さを感じる場所と相まって余計に…
その場に立ち込める空気からいち早く退散したくて、早々に立ち去る。
が、目につく鉄柵という鉄柵に重すぎる思いが詰まりすぎた南京錠が嫌でも目についてしまう。
(………ちっ)
(こーいうの付けるヤツの気が知れん)
目につくたびにゾクリと悪寒が背筋を走る。
(早く帰ってシャワー浴びよ…)
別の意味で体を冷やしすぎてしまった。
流川はなるべく鉄柵を見ないように視線を反らしながら坂道を駆け下りていった。
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