#22 旅路

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暑い夏が始まる頃、マイケルの1年に渡るアメリカ留学が終わった。


「また日本に行ってくるよ。今度は日本で会おうな」


そう言い残して。

それから程なくして、馨の父親の仕事に目処がつき、日本に帰る運びになった。

リサとソフィアは当然驚いた。が、「3人で何処かに行こう」と、日本に帰る数日前に3人でシアトルで最大のマーケットにやって来た。

この日は天気がよく、大勢の人で賑わっていた。

ここは以前馨が夜一人で海を見に行った場所に程近い。

あの時見た風景はとても悲しく見えたけど、晴れた日に海を見ると心が洗われていくようだ。

周りに建物があって殺風景な所はあるものの、何処の海も変わらないんだな…そう思った。

入り口に差し掛かるとブロンズの豚の置物があった。

子供が乗っても問題ない大きさのその置物はこのマーケットの名物なのか、通り過ぎる人がその頭や体を撫でている。

貯金箱のようになっているようで、そこにコインを入れる人もいた。


「ねぇカオル。この、『レイチェル』に1セント入れると『またこの土地に訪れる事が出来る』んですって!」


そう言ってソフィアが「レイチェル」と呼ばれる豚の置物の頭を撫でる。


「へぇ~そうなんだ!」


馨もレイチェルの頭を撫でるとリサが腕を組んだままソフィアをこづく。


「ちょっと待って、私初めて聞くんだけど」

「まぁね、今思いついただけ」


なぁんだ、と3人顔を見合わせて笑う。


「でも、そういうのっていいじゃない?」


いわゆる「願掛け」というヤツか。


「そうだね、いいね、そういうの」


そう言って馨は再びレイチェルの頭を優しく撫でた。


(また、この土地に…)


その姿をリサとソフィアは寂しそうな顔で見つめていた。



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