#22 旅路
沢北は一人何処へ行くという訳でもなく歩いていた。
見知らぬ街を目的もなく、何をする訳でもなく。
上着のポケットに手を突っ込み、ボンヤリと歩いていると、繰り返し脳裏に浮かぶのは遠征中の試合での事ばかり。
相手を抜いたと思っても、高く飛んでも、相手にいとも簡単に止められる。
自分の力はアメリカという大きな世界ではこんなにもちっぽけなのかと散々重い知らされた。
井の中の蛙とは自分の事を言うのだろうか…
「はぁーっ…」
深いため息をつく。
こうやって歩いていてもどうしようもない事は判っている。
もっと強くならなければ…
判っているけど、どうしたらいいのだろう…
ふと顔を上げると公園の入り口が目に入り、意識をそちらに向けるとボールの音が聞こえてくる。
その音に吸い寄せられるように足を踏み入れると3on3をしているのが見える。
(へぇ、流石アメリカだなぁ)
日常的にストリートバスケをやっているのは知っていたが、こうして目にするのは当然初めて。
もう少し近くで見ようとコートに近づくにつれて、プレイしているのは全員女性だという事が判ってくる。
その中で一人だけ身長の小さな人物がいた。
遠目でも判る黒髪。
(日本人?こんなところに…)
思わず彼女のプレイを目で追う。
パスを貰おうと動いているが、背の高い相手に全てのプレイがカットされてしまっていた。
(……)
コートまではまだ距離があるが、これ以上は近づけないでいた。
彼女のプレイを見ていると自分の姿と重なり合う。
何をしても太刀打ちできない自分の姿と…
(やっぱり日本人じゃアメリカのプレイヤーには勝てないのかな…)
(俺みたいに…)
頭の中でそう浮かんだ、次の瞬間。
彼女がボールを奪った。
小さくドリブルした後、マークについた相手と並ぶ。
そして…
彼女はボールを放った。
「ああっ!!!」
思わず声を上げてしまった。
彼女が見せたシュートに目を奪われた。
目に、焼き付いた。
沢北の中で負の感情が吹っ飛んだ瞬間だった。
ボールはリングに当たった後、ネットをくぐった。
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