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#22 旅路


馨は今までの事を一つ一つ話した。

自分には双子の弟がいて、物心着いた頃から一緒にバスケをしてきた事。

最初はとても楽しかった。同じ位の身長、技術。

でも成長するにつれて色んな違いが出てきた。

身長、パワー…性別の違いでどうしても生じてしまう身体能力の差…

だからこそ、その差に負けたくないと対抗してきた。

でもその差は当然の事だと違和感なく接してきた。

諦めとかそういうのではなく。

でも同時に羨ましくもあった。

自分にもその力があればいいのに、と。

その二つの感情が上手い具合にバランスが取れた状態だった。

でもそのバランスは去年の夏の大会で見事に崩壊した。

自分の口から言う事は記憶の再確認をするようで怖くて声が震えた。

自分ではどうしようもない事を言われた。

常に比べられていた事の恐怖。

自分は男として生まれてきた方がよかったのではないかと。

羨ましいと思う感情は、「その事」を望んでいたのかもしれない、という認識。

そして…一番「そう」思われたくない人も「そう」思っていたら…という思い…


「その事、カエデには言ってないの?」

「うん、…ちゃんと言ってないし、ちゃんと聞いてない」

「で、何も言わないままアメリカに来たんだ?」

「うん…」


マイケルが「そうか…」と呟く。

「もし…」と考えると馨にはきちんと話す勇気がなかった。


「じゃあさ、カオルはカエデの事『邪魔』って思ったの?」


その言葉を聞いた瞬間、胸がギュッと締まった。

邪魔?

存在が邪魔だということ?

邪魔とはいらないということ?

指先が一気に冷たくなっていく。


「何も言わないでアメリカに来たんだろ?『一緒にいたくない』って…」

「…違う!!!」


座っていたベンチから立ち上がり、マイケルの言葉を遮るように声を張り上げる。


「違うのかい?」

「違う!絶対に違う!」


自然と言葉じりが強くなり、呼吸が乱れる。

全力で否定したかったから。

違う…絶対に、違う…

彼の存在を消したい訳ではない…彼の存在を邪魔とも思わない…

邪魔なのは今の自分。

ただ、自分の「状況」を消してしまいたかっただけ…


「離れたくなんかなかった!一緒にいたかった!邪魔だなんて…!」


口元が震え、涙声になる。

確かに日本を離れてきたけれど、そんな思いは一切なかった。

出て来なくていい涙が目から勝手に溢れてくる。


「だって…今までずっと一緒にバスケしてきたんだもん!」


離れたくなかったはずなのに、一緒にいたかったはずなのに、自分はアメリカに来てしまった。

悔しくて、悲しくて…色んな人の声を聞きたくなくて。

強硬手段なのはわかっていたけれど、「自分」という存在を認めて欲しかった。

自分で「自分」を認めたかった。

自分と自分達を知らない場所、アメリカでならそれができるチャンスだと思った。

ゼロから始められると。何か変えられると信じていた。

今思うと単純な考えだったかもしれない。

でも、そうしなければ「自分」が壊れてしまいそうだった。

風が吹き、落ち葉が地面を舞うように転がっていく。

マイケルはそれを見送った後、ゆっくりと口を開く。


「…それでも言えなかったのは、カエデに言うのが怖かったんだね。言って、その答えを聞くのが」

「うん…」

マイケルの言う通りだった。

怖くて、ちゃんと向き合えなかった。

溢れた涙を拭う。

いつの間にこんなに涙を流していたんだろう。


「なら、その本心を伝えればいい」

「わかってくれるかな…」

「さぁね。俺はカエデじゃないからそれはわからないよ。でも伝えた方がいい。何も言われなかったんだ…きっと伝えてほしいと思ってるはずだ」

「そっか…ちゃんと伝えられるかな」

「じゃあカオルはもっと強くならなきゃね。強くなりたくてここにきたんだろ?」

「強く…?」

「技術だけじゃない…」


そう言ってマイケルは親指で自身の胸をトントンと指差す。


「ココとかね」

(気持ち…)


自分は強くなりたくてアメリカにきた。

それは技術だではなく、強く在る為に…


(楓は日本で頑張ってる…なら私も頑張らなくちゃ…)


強く在る為に…


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