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#22 旅路


馨とマイケルは高校の敷地内の庭に足を運んだ。

どこかとぼけるような答えをするマイケルに聞きたい事があるからだ。

リサは「邪魔しちゃ悪いから」と先に帰ってしまった。

…そういうのじゃないのに。

所々に設置されているベンチの一つに腰掛けると見渡す限り広がる落ち葉の絨毯に敷地の広さを改めて実感する。



「まさかカオルがここにいるとは思わなかったよ」

「それはこっちのセリフだよ」

「何?」

「…どうしてこの高校にいるの?」

「あぁ、そういうこと」


判っているのか判っていないのか…こちらもよく判らない。


「だって、日本に行ったんでしょ?なんでここにいるの?」

「そりゃあ自分の力を試したいからに決まってるだろ?前にも言ったじゃないか」

「でもなんで…」

「なんでって、俺の気持ちは変わってないさ。だから今この高校に「留学」しにきたの」


自分の力を試したくてアメリカを飛び出したマイケル。

もう一度鍛え直したいと思って戻ってきた、場所はどこであれ自分の気持ちは変わらない、とマイケルはニッコリと笑う。


「で、どう?カオルの方は」


以前の母と同じ質問をされて思わずドキッとする。

あの時は上手く答えられなかった。

では、今は?

今までひたすら自分との戦いをしてきた。

これは上手くいっているのだろうか?


「前にも聞こうと思ってたんだけどさ、カオルはどうして自分の力を試したいんだい?」

「えっ?」


マイケルは口元に笑みを残して続ける。


「どうしてアメリカに来たの?」

「それは…」

「別にわざわざここじゃなくて日本でもよかったんじゃない?」

「なっ…!」


根本を覆す事を平気で言われた。

だったら自分はどうなんだと反論したかったが、言葉が喉から出て来ない。

何も言えず、ただ、強い視線を送る事しか出来なかった。

言い返せない自分が悔しい。

マイケルもそれに受けて立つとばかりに真剣な眼差しになる。


「…それでも自分の力を「自分で」なんとかしたくてアメリカに来たんだろ?

「……」

「だったらどうしてそんな顔をするんだ?」

「……!」


言われて馨は自分の表情が暗くなっていることに気づく。

いつも間に…でも…

どうしてこんな表情になったのかはすぐに判った。

そして、先程ムキになった理由も、…何も言い返せなかった理由も。

それは、マイケルと正反対だったからだ。

マイケルと正反対で自分に自信がなかったから…

一時は忘れることはできても心の奥底にある気持ちは取り除けていなかった。


「何かあってアメリカに来たんじゃないのかい?」

「……」

「言いたくないなら言わなくていいけど、別に」


言いたくない、という訳でもなかった。

でも、マイケルに言っていいものだろうか、とも思ってしまう。

何も言えないでいるとマイケルがフッと笑う。


「その様子じゃ誰にも言ってないんだろ?」

「……」


馨の沈黙をマイケルはイエスと判断した。


「そっか、カオルは日本で遭った事から解放されたくてアメリカに来たんだろ?」

「解放…?」


その一言は心に大きく響いた。

自分は逃げる為にここに来たのか、そういう思いを払いのけてきた。

それは違う、と。

そうではない。

色んな出来事と自分の心を解放しに来たのだと…

自分の心をなんとかしたくて来たのだと。

自分の力で。


「そっか…」


馨は小さく呟いた。


「誰にも言ってないならここで言っちゃえば?俺なら先入観なしで聞けるし。こんな性格だから難しい話はすぐ忘れちゃうけど」


マイケルは笑った。

…もう、誰かに話してしまおうか。

目を背けていては何も始まらない。

馨もつられてフッと笑う。


「それってさぁ、ただ単に首突っ込みたいだけでしょ?結構図々しいね」

「そうでもないさ。でも俺って結構欲張りだから」


マイケルはそう言って首をすくめた。


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