#22 旅路

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ただひたすらに基礎練習を続けた日々。

走り込みの距離も格段に伸びた。

もっと、もっと遠くまで走りたくて…

公園に行く回数は減ってしまったが、自分のプレイとスタミナに向き合う事ができた。

そんな時間の流れは思ったり以上に早く、季節は一周して再び街中は黄色い銀杏の葉で覆われていた。

苦労していた英語は1年も経てば慣れたもので、最初に感じていた不足感はなくなっていた。


馨はリサと共に隣町にある高校に向かっている。

なんでも日本で一番強いチームが遠征に来ているという。

色んな所に友達の多いリサはすぐにこういう情報を仕入れてくる。

「日本から来たチームだから」ということで是非一緒に行こうと誘われたのである。

許可を貰って体育館に入ると練習試合が既に始まっていて、選手の熱気に包まれていた。

2階のデッキからコートを覗き込むと見覚えのある白のユニフォームが目に入った。


「山王工業だ…」

「カオル、この高校知ってるの?」

「うん、知ってるよ。山王工業。大会で何度も優勝してる」

「へー!サンノウかぁ!やっぱり強いんだ!」


日本でバスケをプレイする者なら大抵は知っている優勝常連高校。


胸に書かれた「山王工業」の文字は生で見ると迫力を感じる。

そして初めて目の前で見る山王工業の試合に目を奪われた。


「あの9番の人がエースかな?」


言われて9のユニフォームを着ている人物に注目する。

リサの言う通り、チームの中で彼の動きは突出していた。

ワンプレイ見ただけて上手いという事がわかる。

しかし…


「あっ!またブロック!」

「……」


徐々に相手チームに押されてしまっていた。

チーム全体でもそうだったが、個人の力もアメリカの高校のチームの方が上だった。

山王の9番は何度も1対1を仕掛け、シュートを打つものの、ことごとく阻まれたりブロックされたりしまっていた。

焦りの表情が見てとれるものの、彼は負けじと突っ込んでいく。

決してやられまい、負けるまいと。

そんな彼のプレイを馨は黙って見つめていた。



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