#22 旅路

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シアトルはカナダ国境付近に位置するので、冬は非常に寒い。

道路も凍結してしまうので、坂道が多い街中では危険だからと通行止めになることもしばしば。

家に電話をかけた翌日からずっと悪天候だったので街中はすっかり凍りついていた。

気温が低く、冷たい風は体を芯から冷やしていった。

こういう日は太陽が恋しくなってくる。

そういえば最近太陽の光を浴びてないな…と思いながら馨は外に出た。

バスケットリングのある公園も当然ながら凍りついていて使い物にならない状態。

足を運んでみたものの、公園には人の気配がなくシンと静まり返っていた


(まぁ、当然か…)


ここにいても誰も来ないのは明らかだった。

すぐに帰ろうと思ったが、折角寒い中出てきたのだから遠回りして帰ろうと来た道とは逆の方向に足を向けた。

暫く歩いて行くと見たことのない商店街に出た。

ここを見て回ろうと歩道を歩いて行くと一軒の雑貨店が目を惹いた。

冷たい風を少し避けようと思い、雑貨店の扉を開けた。

店内は木とお香の香りがほんのり漂っていて、温度だけではない暖かさを感じた。

可愛いピアスや指輪と共にレンズのない眼鏡がいくつか並んでいた。

眼鏡とは縁のない視力だったが、どんなものかと一つの手に取りかけてみる。

…眉間の辺りがゾワゾワする。

鏡を見てみるといつもと違う印象の自分がいた。

眼鏡一つでこんなにも変わるなんて思ってもみなかった。

違う自分がそこにいるようで、新鮮な気持ちになる。


「なんか…いいかも」


…何か変われるような気がする。

それは見た目だけでなく、気持ちが。

新しい気持ちの自分が鏡の中にいるようで。

そう思ったら馨の中で購入する事が決まってしまっていた。


(…バスケのときは流石にかけられないけど…)


そう思いながら一つ一つ手に取り、これ、という品を購入した。

レンズのない眼鏡だけど新しい世界が見えるかもしれない。

新しい何かが…




公園のコートが使えない状態なので馨はその日から徹底的に走り込みをした。

家の小さな庭で基礎練習を行った。

時に見えない相手と勝負した。

何度も1on1をしてきた相手と。

そうやって頭を空っぽにしてバスケをしていれば嫌なことは思い出さずに済んだ。

だからますます練習に没頭していった。



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