#22 旅路
「……!」
流川は思わず身震いする。
流川は言葉ではなく、本能で感じとった。
『自分達もあのようで在れば…』と。
気持ちがリンクしているのであれば…
強く在れば、強い気持ちであれば…
…『月』は、輝ける。
だから自分は強い存在であろうと。
もっと強くならねば、と。
そうすれば、きっと…
この事を、理屈ではなく直感で感じた。
上手くいっていないかもしれないけれど、なんとかやっている。
上手くいってないかもしれないけれど、これは自分で選んだ道だ。
戻る道などない。
だから、なんとかやるしかない。
やり抜くしかない。何が何でも。
そして、もっと強くなりたい。
強くなれば、きっと…
だから、
だから大丈夫。
俺も、アイツも。
自分が大丈夫なら、アイツも大丈夫。
自分がそう導き出したのだから、アイツもきっと自分で導き出す。
気持ちがリンクしてるというなら、この思いもリンクして欲しい。
そう願いながらカーテンを閉める。
『寂しいんでしょ、馨も』
『見てればわかる』
「……む」
ふと思い出された先程の言葉…なるほど、そういうことか。
寂しいという言葉が自分も含まれる言い方をされて何とも不本意だ。
あながち間違いではない分、その事が伝わってしまった事が誠に不本意。
そんなことはない、自分は大丈夫、と首を振るう。
階段の下から自分を呼ぶ声が聞こえた。
途端に寒気を感じた。
肌寒い部屋にいるより暖かな部屋にいた方がいい。
明日は四中との練習試合。
キャプテンという立場が自分を気負わせていたが、今はどことなくスッキリした気分だ。
気持ちが軽くなったような気がする。
部活の後、自主練をしていたらもっと自分を追いつめていたかもしれない。
今日は早く帰ってよかった、と思う。
色々と冷静に考える事が出来た。
直接会話はできなかったけれども、馨からの電話は自分の存在を見つめ直すいいきっかけになった。
なるほど、監督の言う通り、家でゆっくり過ごすのも悪くないかも…
そう、思いながら流川は自室を出る。
廊下で自分の隣の部屋のドアを見つめる。
今は誰もいない部屋、シン…と静まり返っている。
主のいない部屋。
「……」
誰もいないのはわかっている。
ドアを開けようか、そう思った時に再び母の呼びかけがあった。
ハッとなり、生返事をする。
感傷的になっている場合ではない。
強い自分で在ろうと先程思ったばかりなのに。
ため息を一つ吐く。
「ダイジョウブ、ダイジョウブ…」
呟きながら階段を降りていった。
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