#22 旅路
今まで、ここまで意識したことはなかった。
もう一人の自分の存在を。
当たり前だったその存在がなくなったとき、ここまで自分が崩れるとは思ってもみなかった。
普段通りを装っても、上辺だけの装いではダメだった。
うまくいっているけれど、自信を持ってそう言えない。
完璧にやる必要などないとは思っているものの、やるからにはやり遂げたい。
もう、後には引けない。
自分で決めたことだ、やり抜くしかない。
それはわかっている。
何かが違う。
何かが。
その何か、が判らない。
どうしたらいいのか…
流川は軽く握りしめていた手を緩め、指を確認するように動かし、見つめる。
「どうにかなんとかやってる、か…」
そう、今はその言葉通りの状態だ。
部屋の灯りを消し、開いていたカーテンを閉めるため窓に向かう。
あらかじめ引いてあったレースのカーテンをそっと開ける。
外は真っ暗だ。
星は見えないが、白く輝く月が見える。
静かに、力強く。
月明かりが真っ暗な部屋を薄く照らしていた。
以前、月を見てふと思った事があったのを思い出した。
太陽の光を受けて輝く月のことを。
遅くまで二人で自主練をした帰り道だった。
なぜ、こんなに綺麗に輝くのだろうと…
あの日と同じように眩しく輝く月は、その瞳に映りこむ。
月の模様がはっきりと見てとれる。
太陽の光を受けて光る月。
太陽の存在が強ければ強いほど、月もまた強く輝く。
自分で光っている月ではないけれど、太陽の光を受けて力強く輝く。
太陽の光がなければ月は光を失い、見えなくなる。
夜は太陽そのものを感じる事はできない。
でも、月が輝いていればその存在を感じる事ができる。
太陽の存在を感じることが出来れば、月は輝ける…
太陽の存在が強ければ強いほど…
あの月のように、…太陽のようであれば…
太陽がいつも、月を照らしていれば…月は輝ける。
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