#22 旅路


自分のプレイは何だったのだろう。

1年生ながらベンチ入りをし、2年生では試合中に活躍する場も与えられ、周りからも認められた。

自分より身長もパワーもある流川楓と対等にプレイできた。

負けたくないと思っていた。

もっと上手くなりたいと思っていた。

でも、どこか自惚れがあったのかもしれない。

自覚はなかったけれど、自分が気付かない自惚れた気持ちがあったのかもしれない。

『自分は他の人より上手いプレイができる』と。

そのような気持ちが全くなかったのかと聞かれたら、100%で「なかった」と言えないかもしれない。

自信と自惚れは紙一重の感情なのだろう。

自分のプレイに対する自信、それは自信は「できる」のだという自惚れなのかもしれない。

そしてその自信と自惚れは今日の試合でバッサリと切り捨てられてしまった。

自分のプレイは全く歯が立たなかった。

相手を抜く事はできても、得点を許されなかった。

懸命なプレイも相手にとっては「子供」だった。

簡単に抑えられ、簡単に吹っ飛ばされた。

…今までの自分のプレイは何だったのだろう。

今まで自分が積み重ねてきたものは何だったのだろう。

今日一日で崩れてしまう程度のものだったのだろうか…。

自分は小さな世界でいい気になっていたのかもしれない。

アメリカという大きすぎる世界に放り出された自分は何もできずに終わってしまった。

なんでここに来たんだろう。

どうして大きな世界を知ってしまったんだろう。

今まで通り、楽しくバスケをやっていた方が自分の為だったかもしれないのに…。

戻りたい。

楽しくバスケをやっていた頃の自分に。

ただ上手くなりたくてプレイしていた頃の自分に。

こんな、惨めな思いは知りたくなかった。

知りたくもなかった。

怒りと悲しみが心を支配し、馨は拳をギュッと握りしめる。


「ちくしょう…」


前に進むしかないのに、その勇気がなくなっていた。

出来ることなら戻りたい。

戻りたいけど、もう過去の自分に戻ることはできない。

だからこそ悔しくて、悲しい。

過去の自分が既に懐かしい。

楽しくプレイしていた自分が、いや、「自分達」が。


胸が締め付けられるように痛い。

頬を流れる涙がポタリと落ちる。

たまらず顔を上げると海風がサァッと吹き抜けていき、髪を舞い上げる。

冷たい海風が頬をなぞる。

潮の香りがする。

そっと目を瞑ると湘南の海の風景が瞼の裏に広がる。

ここはアメリカだけど、今でも鮮明に思い出せる懐かしい風景。

ここはアメリカだけど、今、自分は一人で隣には誰もいないけど、彼の気配を感じずにはいられなかった。

…そして、思わずにはいられなかった。

言葉にせずにはいられなかった。

今までずっと我慢してきた、言葉と、彼の名前。


「…会いたいな……楓…」


久し振りに彼の名前を口にしたところで更に涙が溢れた。

毎日の様に呼んでいた名前。

当たり前の様に呼んでいた名前。

今、こんなにも懐かしく、恋しく感じるなんて。

大声を上げたい気持ちを抑えて声を殺した。

それでも溢れる涙は止められなかった。

嗚咽を止めることは出来なかった。


この空の遥か向こうに彼はいるのだろうか。

この海のずっと先には懐かしい海が広がっているのだろうか。

またあの海に行きたい。

また連れて行って欲しい。

また隣にいて欲しい。




遠い遠い、彼を思う。




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