#22 旅路


ボールを構えたまま相手との睨み合いが続く。

周りもこの二人がどう動くのか注目している。

馨は相手の視線を反らさず視界を広げてコート内の動きに目を配る。

皆、マークする相手にピタリとついて隙を与えまいと動いている。

脳裏に「目の前の相手を抜いてコート内を掻き回そうか」とよぎり、ドリブルを一つしようとした瞬間、ソフィアがマークを振り切った。

それを見た馨は先程の自分の案を確信に変え、強めのドリブルで相手の足の間にボールをくぐらせ、マークをスルリとかわす。

ソフィアへパスが行くと読んだ相手チームは馨とソフィアの間のパスコースを防ぐ。

しかし馨はソフィアへパスをせず自らゴール下に突っ込む。

馨も相手チームの動きは予想できていた。

助走をつけ、シュートに跳ぶ。

ゴール下にいたセンターがシュートさせまいとブロックに跳ぶ。

自分より遙かに高いブロック。


(今度こそ、決める!!)


なんとしてもボールをリングに押し込んでやるという気迫。

どんなに高いブロックであろうと、なんとしても決める。

高く伸ばした右手からボールが離れる瞬間だった。



……ドシッ!!!



「っ!!!」


突然、横から強い衝撃に襲われた。

自分の身に何が起こったのか判らなかった。

衝撃でボールがポロリと落ちる。

空中でバランスを崩された馨はその衝撃に耐えられずそのままコートに倒れ込んでしまった。


「痛っ……」


自分に痛みが走った時、誰かが自分に接触したのだと理解した。


「カオル!大丈夫!?」


リサがすぐさま駆け寄り、ゆっくりと上体を起こす馨の背中に手を添える。


「大丈夫、ありがとう」


そう言って腕に着いた砂を払い落とす。

大丈夫、と言ったものの地面はアスファルト。

正直なところ、痛い。

擦りむきはしなかったが地面にぶつかった箇所にじんわりと痛みが残る。

ぶつかってきた相手は馨をマークして先程ボールを叩き落とした「彼女」

ディフェンスファウルを取られたが悪気は全くなさそうだ。

口元に笑みさえ浮かべている。


「ちょっとぶつかっただけなのに、大袈裟ね」


そんな事を呟きながら手を挙げていた。

ソフィアは「相変わらず態度が悪い」と文句を言っていたが、馨は何も言えなかった。


「………」


痛む箇所を手で押さえながら彼女の背中を見送る。


(くそっ……)


人が集中するゴール下では人との接触は避けられない。

シュートに跳んだ時、ブロックに接触してしまってもシュートを決めるつもりでいた。

それは無茶なプレイかもしれないが、それでもシュートを決めたかった。

でも、あんなに強い横からの衝撃は予想外だった。

だから自分もバランスを失い、転倒してしまった。

でも…。

シュートを阻止するために跳んでぶつかったにしては大きな当たりだった。

接触してしまった、というより、あれは…

「突き飛ばされた」ような…


(もしかして、ワザと?)


試合前からの挑発的な態度やプレイからそんな疑惑が生まれる。

でも、そんな事は考えたくない。

いくら態度の悪い相手だとはいえ、プレイヤーとしてプレイに対して悪質な事はしないと信じたい。

そう、ワザとではないと。

そうだとしたら…


(さっきのプレイはワザとじゃなかったら…?)


相手は本当に横からブロックに跳んだだけで、勢い余って衝突してしまっただけだとしたら…

そうだとしたら、なんてパワーだろう。

体格差のせいもあるだろう。

でも。


(ただ単に、私のパワー不足なんだろうか…)


馨は右腕のリストバンドを握り締める。


(相手は「少しぶつかっただけ」って言ってた…なのに私は…「少しぶつかっただけ」で吹っ飛ばされた…)


そう、自分は「軽く接触するプレイ」でいとも簡単にバランスを崩して倒れてしまった。

それに気づいた時、悔しさが募った。

体格差があるから、なんて言い訳にしか感じられない。

リストバンドを握る左手にギリッと力がこもる。

体格差があるとはいえ、負けたくない。

体格差があるからといって、それを理由に「劣勢」だと考えるのは嫌だ。

例え劣る部分があったとしても、それに負けたくなくて必死にプレイしてきた。

今までそういう思いをしながらプレイしてきた。

…そういう思いをしながら1on1をしてきた。

だからここでも負ける訳にはいかない。

馨はコートをキッと睨みつけて、走り出す。



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