#22 旅路


後半になってから馨へのマークがキツくなっていた。

前半に誰よりも速く動いていた相手にチェックが入るのは当然だし、その事も馨自身もすぐに気付いた。

だからといってまんまと抑えられる訳にはいかない。

マークをするのは馨達に「ケンカ」を吹っかけてきた3人のうちの一人。

先程の速攻を阻止したのも彼女だった。

バカにするような発言は腹が立つが、口先だけではない実力を持っているのは確かだった。

自信過剰というわけではないが、馨自身スピードはある方だと思っているし自分の武器だと思っている。

体格で負ける相手に対抗できる手段として身につけてきたスピード。

そして、それを生かせる技術も。

そんな自分にあっさりと追いついてみせた。

フーッと息を吐き出し、流れ出る額の汗を腕で拭う。


(これが…本場のバスケってことか…)


後半になって相手チームは前半とは格段な違いを見せた。

特にあの3人の動きは前半とは比べ物にならなかった。

最初はディフェンス重視の作戦に切り替えたのかと思っていた。

しかし、それは試合が進むにつれて違うのだと感じるようになる。


(もしかして、前半は様子を見るために力を抑えてた?)


今の方が動きが確実によくなっている。

後半のこの動きが本来の力だというのか。

馨は後半になってから得点を決めさせてもらえなくなっていた。

相手の動きに対抗しているためか、前半に比べて体力の消耗が激しい。

コートの中央でボールを受け取った馨にすぐにマークがつく。

相手を抜こうとボールを低い位置に構えなおす馨に合わせて相手も姿勢を低くした。


(なに…?なんだか…)


相手の目を見て馨は瞬間的に感じた。


(なんだか…気持ちが悪い…)


疲れや体調からくる気持ち悪さではない。

相手から感じる空気が気持ち悪かった。


(なに…?このディフェンス…)


背筋がゾクリとした。

威圧感…挑戦的…

いや、それと似ているようでどこか違う感じ。

何故かはわからなかった。

とにかく気持ち悪さだけが馨を襲った。


「どうしたの?」


相手が冷ややかな笑みを浮かべる。


(…気持ち悪い)


この笑み、嫌な感情が込められていて本当に嫌になる。


「…別に」


馨は言葉だけは冷静に返した。

先程ソフィアが言っていた言葉が頭をよぎる。

相手から「変な感じ」がする、と。

そして、自分に「気をつけて」と。

ソフィアが言っていたのはこの気持ち悪さの事なのだろうか。

相手が自分に負の感情を抱いているのか。

そして、何か仕掛けてくるつもりなのか。

とにかく相手が自分に対して嫌な空気を発している事だけはわかる。

ボールを持ったままの馨にまたも相手が声をかける。


「ねぇ、どうしたの?動かないの?」

「……」

「それとも、動けないの?」

「……ナニ?」

「後半も、走るんでしょ?アナタ、まだ何もしてないじゃない」

「……チッ…」


何も言えなくて舌打ちが出る。

イライラが募る。

相手の言葉もそうだが、何より嫌な笑みがそれを増幅させる。

そして、心の奥底で重たい感情が顔を覗かせていた。

胸が、ギュッと痛む感情。

この気持ちはどこかで体感した事がある。

押し殺した感覚。

何かを思い出させるようで胸が苦しくなる。

嫌な思いを振り払うように静かに相手を睨みつける。

乱れた呼吸を整えるように…


「…どあほうが…」


相手と自分に向けて、呟く。


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