#22 旅路
3人の態度の悪さに憤慨するソフィアと静かに怒りを露わにする馨の間でリサが必死に手を合わせて謝っていた。
「ごめんなさい!ソフィア、カオル!あんな人達がいるなんて知らなかったの!」
リサが言うには試合をしようと誘ってきたのはあの3人とは別のメンバーだという。
リサに非は全くないのは十分わかっている。
それでもあんな失礼極まりない態度を取られては、怒りの感情をすぐに治める事はできなかった。
怒る2人に謝るばかりのリサに、最終的には今度は2人が「気にしないで」と必死に謝る形になってしまっていた。
こうして両チームの間で嫌な空気がある中で試合は始まった。
普段は3on3をする人達ばかりが集まるこの広場。
リングは普通のコートと同じように向かい合わせで設置されているため、通常の5対5で行う試合もする事ができる。
ラインも引いてはあるが、いつ引かれたものだろうか、擦れてしまっていて古さを感じる。
センターサークルにソフィアが立ち、審判役の人物からジャンプボールがゆっくりと放たれる。
試合開始。
相手チームは全員が身長170以上はあるチーム。
背の高さを生かしてボールをまわしていく。
こちらも決して低いチームではないが、平均身長では明らかに負けていた。
中でも馨は両チームの中で一番小さかった。
相手チームが全員高身長というのは初めての経験だったが、背の高いプレイヤーには全く抵抗はなかった。
身長が170センチ以上あろうとも、負ける気はしなかった。
今まで毎日のように高身長の相手とプレイしてきたのだから。
馨は身長で勝てない分、持ち前のスピードとボールさばきで相手に仕掛ける。
序盤は身長で対抗できるソフィアを中心にゴールを決めていく。
馨が中まで切り込み、ソフィアへのマークが油断したのを見計らってパスを出す。
徐々に得点源であるソフィアのマークがキツくなっていく。
ディフェンスが中に集中したところで外にいたリサがゴールを射抜く。
馨はスピードの速さで相手のディフェンスをかわしてシュートを決めていく。
コート内で一番小さい馨のドリブルは背の高い相手には防ぐ事はできなかった。
相手チームは身長を武器にリバウンドやブロックを決めていく。
高さとパワー重視の相手チームとスピードと機動力で相手をする馨達のチーム。
力は互角だった。
試合後半終了間際、ディフェンスに囲まれたソフィアから3Pライン近くにいた馨にパスが渡る。
ボールを持つノーマークの馨に相手チームはすぐさまチェックしようとする。
馨はマークに真正面で迎え撃つ。
…素振りを見せた。
フェイクにかかった相手は一瞬身構えてしまう。
馨はその一瞬を見逃さず、3Pシュートライン外からボールを放つ。
ボールは高く綺麗な弧を描いて、パツンという音と共にリングを通り抜けた。
「前半終了!ハーフタイム!」
シュートが決まった瞬間、審判の声がかかる。
「カオル!ナイス3Pシュート!」
「うす!ありがとう!」
すぐさまリサがハイタッチを求め、馨もそれに応える。
そして他のメンバーともハイタッチを交わしていく。
皆でお互いを賞賛しあい、後半に向けての意気込みを露わにする。
馨はリサが用意してくれたドリンクを受け取り、少しずつ口に運ぶ。
(大丈夫、私はここでちゃんとプレイできる!)
馨はアメリカでのバスケに手応えを感じていた。
誰も馨を特別視しなかった。
皆、「馨」と接し、一緒にプレイしてくれている。
「流川楓の姉」という目で見る人は誰もいない。
「流川馨」と言う一個人として見てくれている。
リサもソフィアも自分のプレイを認めてくれている。
自分がアメリカに来て望んでいた事が、今、実現している。
自分自身の存在に自信が持てるかもしてない。
そんな思いがはっきりと見えてきていた。
「どうしたの?カオル。とっても嬉しそう」
自然と顔がほころんでいたらしい。
一瞬、この気持ちを話そうかと思ったが、そんな事を話す時間はないな、と思い直し、誤魔化す。
「ん?さっきの3Pシュートが綺麗に決まったからね」
「やっぱり、私のパスがよかったからね~」
「生意気~」
チーム内で笑いが起こる。
そんな姿をコートの反対側から例の3人が横目で見ていた。
馨をバカにした3人が。
「どう?あのコ」
「まぁ、足は速いけど…問題ないわ」
「所詮、『ニホンジン』よね」
「じゃあ、後半仕掛けようか」
「OK」
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