#22 旅路
ウォーミングアップを始めて少し経った時、相手チームがコートにやってきた。
「…あ!」
ソフィアが思わず声を上げる。
知り合いでもいるかのような反応に、入り口を見ると全員が背の高いグループが入ってきた。
特に大きい3人はどこかで見たような気がした。
同じ事を感じたリサが小声でソフィアに話しかける。
「ソフィア、知り合い?」
「知ってるけど、『知り合い』って言えるかしらね」
少し嫌な顔をするソフィア。
「前に私を『チームに入らないか』って誘ってきた人達よ」
そういえば、と、ソフィアと初めて会った時に後からコートにやってきた長身の3人がいた事を思い出す。
ソフィアが「私と気が合わない」と言って断った相手。
あの時の3人が相手チームにいた。
少し派手な外見の通り、派手な笑い声を上げている。
良く言えばクラスで中心になるような明るいグループ。
悪く言えば気が強くてクラスで目立ちたいグループ。
そんな印象を受けた。
(確かにああいう人達は少し厄介なんだよね…)
学校に少なからずいる、大人しい人達を無意識に見下しているようなグループ。
そのグループと逆の事をすると信じられないとばかりに騒ぐような…
ソフィアがチームの誘いを断った理由がわかったような気がする。
相手チームの3人がソフィアに気づいてこちらにやってくる。
「ハイ、ソフィア、久しぶり」
「…どうも、お久しぶり。随分背の高いメンバーを集めたのね」
「アナタが入ってくれたらもっとよかったんだけどね。今からでも遅くないわ、どう?」
「いいえ、私、今のチームで満足してるから遠慮しておくわ」
笑顔で会話しているものの、目は笑っていない。
丁寧な言葉遣いも威圧感がある。
その表情と口調から薄ら寒いものを感じる。
取り巻く空気も冷たい。
馨は直視出来ずに会話だけを聞きながらシューズの紐を結びなおす。
「あら満足?小さいメンバーに囲まれてるのに?」
「ちょっと!」
ソフィアの隣で話を聞いていたリサが声を上げるがすぐにソフィアが制止する。
「背は高い事に越したことはないけど、高さだけじゃ満足できないの。このチームには巧さがあるんだから」
ソフィアはそういって馨に視線を送る。
聞き耳を立てていた馨は視線に気づき、ソフィアを見上げる。
「…え?」
一同の視線が馨に集まる。
長身の3人の視線が痛い。
「…ナニ?このコ」
「む…」
馨に向けられた一言。
モノを見るかのような口調。
歓迎されていない事はすぐわかった。
見下ろされている形の体勢も加わって余計に気分が悪い。
初対面でよくこんな態度が取れるもんだとムッとしながら靴紐をギュッと結び、立ち上がる。
「カオルです。はじめまして」
あくまでも冷静に、笑みを作って3人に握手の手を差し出す。
「『カオル』…?あなた、日本人?」
馨の差し出した手を無視して冷たい視線だけが返ってくる。
「…そうですけど?」
あからさまな態度を取られてイライラが募る。
なんなのだ、この人達は。
「あなたが、バスケ?」
「日本人ですって!」
「こんなに小さくてゴールにボールが届くのかしらね」
小声だがわざと聞こえる音量で話す3人。
当然、馨の耳にも届く。
(ムっっっっカつく!!!)
なんなのだろう、この挑戦的な態度は。
握手も無視するうえ、非常にわかりやすい馬鹿にした態度。
馨は舌打ちが出るのをグッと堪えた。
「小さくてもシュートは入りますよ?」
馨の顔に笑みはない。
このような態度をする相手に向ける笑顔など持ち合わせていない。
「ふぅん、日本でバスケをしていたの?」
「ええ。小さい頃から、ずっと」
「クラブチームに入ってたの?」
「学校のチームに。ユニフォームも貰いました」
「へぇ、ベンチ入りはしてたの」
馨は力強い視線を相手に送る。
「ねぇ…、プレイしてみなきゃわからないでしょ?相手の力なんて」
3人は馨の少し反抗的な視線に一瞬目を丸くするも、すぐにクスッと笑う。
「…そうね。アナタの言うとおりやってみなきゃわからないわね。ごめんなさいね?」
そう言ってクスクス笑いながら馨に背を向けて自分達のチームの方へ歩いて行った。
「……」
馨は3人の背中を睨みつけて見送った。
「フン、どあほうが…」
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