#22 旅路


「なるほど、カオルも同じような理由でアメリカに来たの?」

「うん。勢い任せだったけどどうしても自分だけの力っていうのを証明したくて」

「『自分だけ』の力?」

「そうだよ」

「それって、どういうこと?」

「えっ…」


詳しく聞かれて馨は一瞬固まってしまう。

ここから先の話は日本での事を話さなければならない。

初対面の相手に話せる事でもないし、いきなり自分の身の上話を始めても困らせてしまうだろう。

それに、日本での事を一から口に出して説明する勇気などない。

思い出すだけで嫌なのに、最初から順番に話す事なんて出来ない。


「どうかした?」

「あ、ううん。なんでもないよ」

「…そう?…まぁ、事情はどうであれ、カオルは自分の力を試したくてアメリカに来た。
俺も自分の力を試したくて日本に行く。
行き先は違うけれどやってることは一緒だな」

「うん、だからマイケルの話を聞いてビックリしたよ」

「自分と似てるって?」

「うん」

「…じゃあ、お互い頑張らないとね」

「そうだね、頑張らなくちゃね…」


マイケルは少しうつむき加減で話す馨をチラリと見た。


「……」


日本に行く事を話した先程の自分とは違う姿だった。

日本で力を試したくてウズウズしている自分とは違う姿。

似ていると言っていたが、どこか違う。

ここでどうしてかと質問するのは簡単だが…

フッと笑ってマイケルは立ち上がる。


「じゃあ、お互いの目標を称えて!」


そう言って馨の前に右手を差し出す。


「握手!」

「…えっ?」


「そんなビックリしないでくれよ。
目標があってお互い異国の地を踏むんだろ?その目標に少しでも近づけるように」


さぁ、と握手を促すように右手を更に前について出す。


「それともハグの方がいいかな?だったらそっちの方がいいなぁ」


そう言ってマイケルは両腕を広げる。


「あ、握手だね!握手しようか!お互いを称えて!」

「ハグは嫌かい?アメリカではハグは日常茶飯事なのに」

「あいにく、アメリカの日常にはまだ慣れてないんでね」

「そっか、それは残念」


口では渋っているが、やはり冗談だったようで肩をすくめて優しい笑みを浮かべていた。

馨はマイケルと向かい合って立ち上がり、右手を差し出す。


「カオル、頑張ろうね。目標に向かって」


マイケルはそう言って馨の手をグッと握る。

痛くない強さで、握り締める。


「マイケルも頑張って。日本で」

「勿論。今日、カオルと話をする事が出来てよかったよ」

「私も。いきなりでビックリしたけど」


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