#22 旅路


聞いたことがない高校名だった。

確かバスケットをしたくてわざわざ日本という異国に行くわけだから海南や翔陽というような強豪校の名前でも出てくるだろうと思っていたが違っていた。

他に強い高校はあっただろうかと考えていると「リョクフウは今度出来る新設校なんだ」というマイケルの助け船で全ての謎は解決した。

新しく出来る高校なら知らなくて当然だ。


「NBAの人から声がかかったから、ここでずっとバスケを続けててもよかったんだけどね。
いや、上手くなるには絶対アメリカでバスケしていた方がいいと思う」

「え?じゃあなんでわざわざ日本に…しかも新設校なんでしょ?」


いきなり自分の行動を否定するような言動にビックリする。

マイケルの言う通り、NBAチームから声が掛かるくらいの腕前ならこのままアメリカにいてプレイしていた方が、プロという土俵に立つ確率は確実に高い。

それをわざわざ蹴ってまで日本に行くというのは勿体ない話だ。

悲しいかな、日本でのバスケはアメリカの規模やメディアでの盛り上がりと比べると断然に劣っている。


「順当に行くなら日本からのスカウトは断ってアメリカに残っていた方がいいだろうね。
自分でもそう思う。
でもねぇ、スカウトを受けてからチャレンジ精神の方が勝ったんだよね。
『日本にもきっと素晴らしいプレイヤーがいるんだろうな。いるならそいつと勝負したいな』って」

「勝負?」

「そう。俺はアメリカという枠の中の世界しか知らない。
例えば…オリンピックを見ればわかるだろ?世界を見れば強い奴なんていくらでもいる。
それを知らないでいるなんて勿体ないじゃないか」


自分の輝かしいであろうこれからを話すマイケルは止まらない。


「それにね、俺をスカウトしてきた人が『うちは高校バスケの頂点に立つんだ!』ってそれはもう熱心に言うんだ。
新設校のくせして、えらくでかい目標だなって思ってたんだ。最初はね。
でもね、考えているうちに『何もないところから始めるっていうのは自分自身の本当の力を試せるんじゃないか』、そう思ったんだ」

「本当の…力…」


馨の胸がドキリと鳴る。

その真剣な目を見つめる。


「それにね、ここだと誰かしら俺を知ってる。NBAチームから声がかかってからは余計だよ。
別に嫌って程のものではないんだけど…なんかプレッシャーを感じてね。
そういう前評判がない土地でバスケをやって俺の力を試したかったんだ」


胸が締め付けられるようだった。

馨の手に力がこもる。

何もないところから、自分を知る者が誰もいない場所で己の力を試したい。

そういう気持ちが自分と同じだった。

この人も苦しんだのだろうか。

そんな素振りは全く見せないが、日本に行くという気持ちにさせたくらいの心の揺れ動きはあったのだと思う。


「あと、色々と支援してくれるって言うしさ。それも中々オイシイ話だと思ったし」


真剣な顔つきから一転してマイケルはおどけた顔を見せる。


「私も…」

「えっ?」

「私も、一緒だ…」

「え?カオルもオイシイ話に乗せられてアメリカに来たの?」

「違う、その前だよ」

「あっ!頂点に立つのが夢だったの?」

「……いや……自分の力を試したいって話だよ…」

「あぁ、そっちか」


わざとなのか?と思う程の切り返しに「間違いない、この人は天然だ」と馨はため息をついてしまう。

そんなため息もマイケルには全く無意味であった。


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