#22 旅路
「この前、どうして私を見てたんですか?」
「この前?」
「ほら、一昨日ですよ。3on3やってる時に見てたじゃないですか」
「意味ありげな顔で」、という言葉は万が一違った時に深い墓穴を掘らないように黙っておいた。
自意識過剰に思われたらとんでもない。
「あぁ、あの時ね。『あ、日本の子がいるなぁ』って」
「…それだけ?」
「あぁ、それだけだよ。
俺、日本の高校に行くからさ、ここに日本の子がいるとは思わなくて、思わず見ちゃったんだ」
ほら、なんでもなかった!!と馨は心の中で叫ぶ。
ソフィアは怪しいとか色々言っていたけれど、マイケルは特に意味もなくただ見ていただけだったじゃないか。
全く失礼な話だ。
「あれ、もしかして何か勘違いさせちゃった?」
「は?」
「ポニーテールの子が盛り上がってたみたいだけど…」
「勘違いしてないってば!盛り上がってるのは彼女だけです!」
こんな事を聞くんじゃなかったと後悔する。
お陰で話がどんどんズレていく。
しかもマイケルの方から話がしたいと誘ったのに…
私がとんでもない話をしだしてどうすると自己嫌悪する。
マイケルもそんな話をしたかったわけではないだろうに。
本人もそれに気付いたのか「自分が話をしたいんだっけ」というような顔をする。
もしかしたらマイケルは少し天然の気があるのかもしれない。
話題を変えようか、と、次はマイケルから話し出す。
「さっきも言ったけど、俺、日本の高校に進学することになったんだ。
で、今ここに日本人のカオルがいる。
なんだろう、親近感かな?だからこの前カオルを見てたんだ。
そして今日またここに来たらカオルがバスケをやってるのを知ってね。
しかも、結構な腕前だ。
日本っていう共通点に加えて更にバスケットボールプレイヤー。
興味湧くに決まってるだろ?
カオルとお話したいってのはそういうワケ」
なるほど…
確かにそれだけのことがあれば興味かわわくだろう。
例えば、ここに同じ見ず知らずの日本人がいてバスケをする人間がいたら間違いなく話し掛けているだろう。
「で、カオルは日本から来たばかりなんだろ?」
「うん、まだ来たばっかり。だから毎日英語に四苦八苦。だからマイケルとどう会話しようかドキドキしてたよ」
「ハハッ、驚かせちゃったね」
「私ね、日本の神奈川ってとこからきたんたけど…、」
「カナガワ!?」
話の途中なのにも関わらずマイケルが話をかぶせてくる。
「カナガワ!!俺の行く高校もカナガワって所にあるんだ!」
「えっ?本当?知ってる高校かな?神奈川のどこの高校?」
「え~っと…どこだったかな」
「ええ~…」
日本という地名でさえ懐かしいのに、更に懐かしい地名が出て来て、よくぞこの広い世界でこの名前が出てきたなぁと喜んだのも束の間だった。
立ち上がりそうなくらいの勢いが一気に崩れてしまった。
まぁ、神奈川とひと言で言っても色んな場所の名前があるし沢山の高校がある。
アメリカ生活のマイケルにとって日本の地名は馴染みが浅いのだろう。
ド忘れしてしまうのも無理はない。
…と納得はするものの、自分の進学する高校の名前くらいは覚えていて欲しいと思う馨は、「やっぱりマイケルは天然」なんだろうと小さなため息をついた。
どこだっかと考えていたマイケルはその小さなため息をきっかけに名前を思い出したようだ。
「ああ、そうそう!高校の名前、思い出した!リョクフウ高校だ!」
「リョクフウ??」
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