#22 旅路


(困ったなぁ…お話って言われてもまともな会話なんて出来ないのに…)


リサの説明でマイケルが自分と話をしたいというのは理解できた。

そういう話をしていたのは理解できたが、初対面のマイケルが自分と話をしたいというのは全く理解出来なかった。


それにしても困った事態になった。

話をしたいと言われても何を話されるのか…それ以前に私にまともな会話が出来るのだろうか。

今まで単語や短い英文でなんとか会話してきた。

相手の言っていることは節々の単語やニュアンスで把握する事は出来る。

しかしそれに対してきちんと答えられる程、英会話に自信がなかった。


それでもマイケルが自分と話をしたいと言うのだから、なんとか応対しなければ。

知っている限りの知識をフル活用するしかない…と心に決めながら、馨はマイケルの後ろを歩く。


「ちょっとここに座って待ってて。すぐに戻るから」


マイケルは馨をベンチに座るよう促し、すぐさま全力疾走で公園を後にする。

なんだろうと思うまもなくその姿は見えなくなる。

足も相当速いようで、程なくして戻ってきた。


「はい、お近づきの印にこれどうぞ」


どこかで買って来たのだろう、馨に冷たいジュースを手渡すと、マイケルは隣に座った。


「あっ、ありがとう」


プレイの後で汗をかいていた馨は受け取ったジュースを遠慮なく貰った。

さて…

どうやって会話してよいものか…と思いながらジュースを口に含むとマイケルの口から思いも寄らぬ言葉が出てきた。


『カオルは日本から来たんだって?』


馨はビックリして口の中のジュースを噴き出しそうになった。

マイケルの口から飛び出したのはなんと日本語だった。

しかも、どう見ても英語圏の見た目のマイケルからは到底似合わない流暢な日本語だった。

咳き込みそうになるのを必死に抑えて口の中のジュースを飲み込んだ。


「にっ日本語!?」

「ビックリした?」


思いがけないマイケルの日本語に馨も日本語になる。

馨が驚くのを予想しきっていたマイケルは、想像以上に驚いたのがよっぽど気分がよかったのか、ニコニコと笑っている。


「だって…、どうして!?」

「どうしてこんなに日本語が喋れるのかって?」


すっかり虚をつけられた上さっき飲み込んだジュースがむせてしまって言葉が出ない馨はうんうんと頷く。


「俺ね、ハーフなんだ。本名、マイケル沖田」

「ハーフ?」

「そう。父親が日本人で母親がアメリカ人。母親の血が強かったんだろうね、見ての通り完全に母親似だよ」


ハーフと言われてもイマイチ信用できない見た目だったが、完璧な日本語の語学力を目の当たりにしたら信用するしかない。


「そんなに日本語が喋れるなら日本に住んでたことあるの?」

「いや、生まれも育ちもアメリカだよ。
あ、でも小さい頃少しだけ日本にいたかな?俺はその事は全然覚えてないんだけどね。
でも昔から両親は英語と日本語両方で会話してたから、物心ついた頃から日本語に馴染みはあったかな」

「驚いた…。だからそんなにペラペラなんだね…。こっちはなんとか英語で喋らなきゃって必死になってたのに…」


さっきまでの緊張感がすっかりなくなっていた。

そういえば父親以外の人と日本語で会話するなんて久しぶりだ。

そして、耳にするのも。

何も考えずすんなりと会話出来る嬉しさがこみ上げてくる。



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