#22 旅路


「今日は賑わってるんだね。あの金髪の人がいるから?」


馨がソフィアに聞くと、彼女は自分の事のように興奮して話し出す。


「あ、わかる?そりゃ盛り上がるわよ!彼ね、物凄く上手いんだから!なんでもNBAのチームが目をつけてるらしいわよ!」

「「え!NBA!!」」


馨とリサの驚きがリンクする。

プロから目を付けられているプレイヤーが目の前でプレイを披露しているなら盛り上がるのは当然だ。

気づいてみればコートでは既に試合が再開されていた。

彼は今度は味方に華麗なパスを出している。


「凄いんだね、あの人」

「ねー!こんなに身近に未来のNBAプレイヤーがいると思うとなんだか鼻が高いよね!」


興奮が止まらないソフィアはリサの肩を揺らす。


「プロかぁ…考えたこともなかったな…」


興奮するソフィアの隣で馨がポツリと呟く。


プロのバスケットプレイヤー。

プロのチームに注目されることは本人にとっても名誉な事であり自分の技術に自信が持てる事のきっかけになったに違いない。

そして、その道に進むという明確な光が見えたのだろう。

あの人はプロという夢に向かってプレイしているのかと考えていただけでこちらの胸も高鳴ってくる。

自分は今、そんな夢など持っていない。

上手くなりたいという前に、ここでの生活に精一杯なのに。


NBAから目を付けられているというのは嘘ではないようで、彼のプレイは目を惹いた。

リサ達とコートの脇で彼のプレイを見ているだけでとても楽しかった。


熱心にプレイを見ているうちにあることに気づく。


「ん??……」


金髪の彼と目が合った。

…ような気がする。

彼がたまたまコートの外を見た先に私がいたんだろうと最初は思っていた。


しかしそれは偶然ではないという思いに変わる。

明らかにこちらを見て不敵に笑う。


(なんだろう…私が日本人だからかな)


確かにこの場にいるのは顔の彫りが深かったり金髪だったり肌の色が違っていたりしていて、馨から見たら「外国人」とわかる人達ばかり。

日本にいても海外から来た人というのはそれだけで目を惹きやすい。

群衆の中に一人だけの日本人がいるのが、もしかしたら珍しいのかもしれない。


多分そうだよね、と思ったところでソフィアが


「彼、カオルに興味あるのかしらね」


と、フフンと意味ありげにいう。


「なんかさぁ、さっきからチラチラカオルを見てるのよね。興味津々なカ・オ・で!」

「まさか!変な言い方しないでよ!」


ソフィアは明らかに「男性が女性として興味を持って見ている」という言い方するので馨はすぐさま否定する。


「私が日本人だからだよ、きっと」

「え~?そうかしら~?私は違うと思うなぁ~」

「ちょっ…、やめてよ!」


なんでそんな思考になるのだろう。
勘弁してほしい。

しかし、今までそういう対象として見られたことがない馨は一気に頭に血が上る。


「彼、カッコイイと思うんだけどなぁ。カオルはどう思う?」

「そ、そんな急に言われても判らないよ!」

「ねぇ、カオル、顔が真っ赤よ」

「えっっっ!!??」


プレイを見て素敵だとは思ったけれど、それはあくまでプレイの話であって、容姿までは含めていない。

その人の容姿がダメと言うわけではなく、そこまで意識して見ていないという話。

ソフィアはなんてことをいうのだろう。

そんな事を言われてしまうと、意識していると思われるのが嫌でもうまともに彼のプレイを見れないではないか。


そんな馨を見て、馨の心情を読み切っていたソフィアは「純粋な子だな」と思うのであった。


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