#22 旅路


お互い久しぶりのプレイに加え、馨とは初めてプレイなので今日は3ON3の試合はしないで、3人で軽く体を動かす事にすることになった。

リサからボールを受け取った馨はその感触に懐かしさを感じた。

毎日のように触れていたバスケットボール。

どれくらい触っていなかっただろう。

こうしてボールを手にするのがとても久しぶりのように思えてならなかった。

一回、ボールをつく。

ボールに触れるのは久しぶりでも、すぐにその感触は自分の手に馴染んだ。

ボールを地面につく度に気持ちが高揚していくのがわかった。

体が自然に動くのがわかる。

馨は空いているゴールに向かってそのまま走っていった。

手にしているボールをゴールにくぐらせたかった。

その一心で。

それを見たリサが素早く馨の前に立ち、ディフェンスする態勢になった。


「!!」

「1on1ね、カオル」

「リサ…!」


突然目の前に立ちはだかったリサに一瞬驚いたが、久々にボールを手にして半ば興奮状態に近い状態にあった馨の脚を止めるには至らなかった。

リサに向かって走りながらもキッと睨み付る。

馨の視線がリサを射抜く。


「!!」


鋭い視線がリサを貫いた。

馨の視線に怯んだリサの脇をすり抜けて一気に抜き去る。


「え…速い!!」


その勢いのまま馨はレイアップシュートを決める。

パツン、というネットの音が耳に大きく残った。

一瞬の間だったが、ボールを手にしてからゴールを決めるまでの間、自分が無我夢中になっていた。

その間だけ、何もかも忘れていた。

日本での出来事、心の空白、妙な悔しさ、そしてここがアメリカであるということ。

全て忘れていた。一瞬だけ。

不思議な感覚だった。


「カオル!」


リサから声がかかる。

振り向くと再び馨の手にボールがパスされる。


「もう一度!今度はすぐには抜かせないわよ」

「……」


ボールを両手で受け取り、ボールをジッと見つめる。

バスケを一心にプレイすれば、何もかも忘れられるだろうか。

先ほどのように。

辛い事も悲しい事も全て忘れる事ができるだろうか。

忘れて、以前のように楽しくプレイができるだろうか。

…以前のように

馨の脳裏に毎日繰り返した流川との1on1が浮かんでは消えていく。

無我夢中でプレイして一喜一憂しながらも毎日が楽しくて仕方なかった日々。

ボールを持つ手に力を込める。

あの日々は大切な日々。

もっとうまくなって、またあの日々を取り戻したい。

馨はリサにボールをパスする。


「OK、リサ、もう一度」


ボールを受け取ったリサは「次は負けない」とばかりにニコリと笑う。

馨はグッと拳を握りしめてリサの元へと歩いていった。

「自分自身」が前に進むように。


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