#22 旅路
突然何を言い出すのかと、馨は少し戸惑う。
「カオル、ここにきてから笑った顔見たことなかったから、心配したのよ?日本から来て英語がまだ完全じゃないせいもあって緊張してるのかなって」
「リサ…」
そういえば、自分は緊張していたのかもしれないと、ここ数日の自分を振り返ってみる。
アメリカに来たのだからもっと強くならなければいけないという思いの他に、「言葉の違い」という壁…。
文字として書かれた英語と、口で話す英語では全く違うということがわかってから、本や辞書とにらめっこしていた。
話したいことがあるのに、どう話せばいいのか、身近な英単語がわからずに戸惑っていた。
そんな状態では表情も硬くなるのは当たり前だ。
そんな馨をリサはいち早く気づいたのかもしれない。
そして、「バスケット」を武器にして誘い出したのだ。
「知り合いに日本人がいるんだけど、やっぱり最初は会話に困ったんだって。私たちが使ってる日常でなんでもない単語がわからないんだって。その話を聞いたから、きっとカオルもそうなのかなって」
馨はリサの話を黙って聞いていた。
意味は完全には理解できていないのはわかっていた。
だけど、言っている内容は不思議と伝わった。
馨はこの時気づいたのだが、馨と話す時のリサの口調は少し丁寧にゆっくりで聞き取りやすかった。
「カオルがバスケやってたって聞いてチャンスだと思ったわ。こうして誘い出す口実ができたし」
「……」
馨は目の奥からこみ上げてくるのをグッと我慢した。
そして、それを知られないように胸の上の方でムズムズする気持ちを堪えながらリサを見た。
「…ありがとう、リサ」
本当はもっと言葉にしたい気持ちがあった。
だけど、その言葉がわからない自分がいる。
悔しい思いと同時に切なさを感じた。
「大丈夫よ、カオル。きっと自然に覚えるわ」
「うん…」
やっぱり伝えたい気持ちをリサに伝えられずにいて、馨は悔しい気持ちになった。
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