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#22 旅路


馨の通う学校は街の中心であるダウンタウンから少し外れたところにある。

通学バスが家の近くから出ていて、それを使って通う事になった。

中学と高校が同じ敷地内にあるので、敷地自体が非常に広大だった。

歴史を感じさせる建物の周囲には高い木々が伸びていて、建物の重厚さを引き立てていた。


「流川馨です…」


クラスで自己紹介をして席につくと、クラスメイトが興味深々で矢のように質問をしてくる。

転校生に興味が行くのはどこでも同じようだが、ネイティブな英語に戸惑ってしまう。

次から次へと投げられる言葉からなんとか理解できる単語を拾い集め、たどたどしい英語で返していく。

ほとぼりが冷めた頃、思わず背もたれに寄りかかってしまう。


「…ふぅ」


言葉の壁というのはこういうことなのかとひしひしと実感する。

英語は苦手ではなかったが早口で言われると何を言っているのかまるっきりわからなかった。


(これは…帰ったらひたすら英語の勉強からかな)


机の片隅に置いた辞書を見て、苦笑いする。


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数日後。

休み時間に英会話の参考書とにらめっこしていると、活発そうなクラスメイトから声をかけられた。

色白の肌に綺麗なブロンドが映える。


「カオル、あなたバスケできるんですって?」

「…え?うん」


自己紹介の時は緊張していてバスケの事は言えずにいたのに、どうして知っているんだろう。

と、考えるより先に相手が話を続けた。


「先生から聞いたわ。日本の学校のチームでレギュラーだったんでしょ?」


なるほど、たどたどしい英語でしか話せないでいた自分の代わりに先生から色々と情報を仕入れてきたらしい。


「私もバスケやるの。放課後、学校近くの広場でストリートバスケやってるの」

「ストリートバスケ?」

「そう。日本ではみんなでやらないの?」

「日本の公園にはバスケットリングがあるところはあまりないから…」

「じゃあ丁度いいわ!よかったらカオルも一緒にやらない?今日は見学でもいいから」

「一緒に…」


一緒に行けば、念願の本場のバスケが見ることができる…

普段からバスケに慣れ親しんだ人たちのプレイがどんなものなのか、とても知りたかった事だ。

そして、誘ってくれた彼女を含め、自分を一人のプレイヤーとして見てくれるだろう。

『流川楓の姉』ではなく『流川馨』として。

それは願ってもないことだ。

馨は彼女の誘いに乗る事にした。


「ありがとう。ぜひ、行かせて」

「じゃあ決まりね。あ、私、リサ・アンダーソン。よろしくね」

「うわっ!!」


リサの突然のハグに、馨は後ろにひっくり返りそうになった。

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