#22 旅路


2階には部屋が2つあり、階段を挟んで左が馨が、右側は樹が使うことになっている。

馨の部屋は道路に面した場所にあり、簡易ベッドと小さな学習机、そして小さなテレビがある。

必要最低限のもののみが置かれた部屋。

そこに今日買出しで揃えた荷物を部屋の隅に置く。

近くの学校に通うのは新学期の9月になってから。

それまでに必要なものを買い揃えておく必要があり、今日はその買出しに1日を費やした。

店は商品がうずたかく積まれていて、まるで倉庫のようだった。

品揃えは豊富で最初は楽しんでいた馨だったが、その広い店内を歩き回ったので疲れてしまった。

ベッドにどさっと横になり、大量の荷物に視線を移すと大きめのコルクボードが袋に入りきれずに顔を出していた。


「……」


このまま横になっていようと思ったけれど、嫌でも目に付くコルクボードから視線を離せず、もう一度起き上がる。

コルクボードは必要最低限のものではなかったが、見つけた瞬間必要なものに変わっていて、買ってしまった。

コルクボードを壁の目立つ位置に取り付け、一枚の写真を左上の端にピンで貼り付けた。

今年も富ヶ丘中のレギュラーに選ばれたと両親に報告したときに記念にと撮ってくれた写真だ。

満面の笑みでVサインを作っている自分と、少しだけ微笑んでる弟の姿。


「……」


ピンをコルクボードの奥まで差し込んだまま、そこから体を動かす事が出来ずにいた。

何も知らずに笑う自分が目の前にいる。

昔の自分と対峙すると、「この時に戻れたら」という気持ちが沸き上がってくる。

時間など戻す事は不可能だとわかっているのに、願わずにはいられない。

ただ楽しくてバスケをしていたのが心地よかったけれど、自分は一つの感情を知ってしまった。


「私は、楓と同じに見られたくない…」


だからアメリカに来たんだ。

『自分と楓は違う。だからもっと上手くなる』

そう自分を「奮い立たせる」

強い意志でここに来たのだと自分に「言い聞かせている」という事に馨は気づかなかった。


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