#22 旅路
日本から飛行機で約9時間、カナダ国境から200km南下した場所にシアトルはある。
太平洋に面したその街は、海沿いでは水産業が、内陸ではソフトウェアなどの産業で賑わっている。
日本から直通の空港からから車でハイウェイを走った場所に、馨がシアトルで過ごす家がある。
シアトルの中心部のダウンタウンの郊外にある閑静な住宅街。
そこには等間隔で並ぶカントリー調の白い小さな家が並んでいた。
家の前の車道は車がやっとすれ違える程度で、歩道には手入れされた緑があり、それは日本の車道とは少し違っていた。
道の先に見える小さな十字路の真ん中には通行を妨げるかの様に緑の植え込みが置かれている。
車はこの植え込みを迂回する形で十字路を渡るのだが、一件面倒なようなこの植え込み、十字路でスピードを出さない為の工夫だという。
馨が一緒に渡米するとの事で、父の樹は急遽この場所に住まいを借りた。
通学にも通勤にもさほど悪くない場所だった。
2階建ての小さな家。
元々空き家だったこの家を、手頃な値段で借りる事ができた。
「会社の人が馨の為にって探してくれたんだぞ!学校に通うにも悪くないし、馨には十分感謝してもらいたいな」
「わ、わかってるよ」
小言に近い樹の言葉から逃げるように馨は2階へと階段を駆け上がった。
(もう、そればっかりなんだから…!)
ことある毎に何度も聞かされた言葉なので、耳にタコどころか他のものまで出来そうなくらいだった。
耳が痛くなる、というより胸が痛くなる。
アメリカには勢い半ばで父親についてきてしまった事は否定できない。
両親や学校にはものすごく迷惑をかけてしまった事に対してはものすごく反省している。
それに…
(楓にちゃんと説明できなかったな…)
アメリカに来たその「勢い」の元を言えなかったことが馨の胸に突っ掛かったままだった。
言おうとしたところできっと言えなかっただろう。
改めて口に出す事で、負の気持ちを再認識してしまうのがとても怖かったから。
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