#21 流離人 vol.2
春。
桜並木を歩く。
鶴岡八幡宮へと続く参道の両側は春の参拝客をもてなすようにと桜が植えられている。
両側には車道が走り、その車道の中央に桜並木の参道、段葛がある。
桜に囲まれた段葛は、機械的な車の存在を不思議と掻き消していた。
美しく咲き乱れる桜。
微かに肌寒さが残るが、柔らかな陽に当たる桜を見ていると、それだけで暖かさを感じる。
僅かな風に吹かれ、花びらがひらひらと舞い降りる。
雪のように儚く散っていく…
それは桜吹雪。
両親はこの春の段葛が好きで、毎年この時期になるとこの場所に連れ出された。
今日は思い立って一人で電車に乗ってやってきた。
観光客に混じって小さな電車に乗るのは少し恥ずかしくもあったが、海岸線や家の間をゆっくりいと走り抜ける車内でぼんやりと外の景色を眺めているとそんな気持ちは不思議に消え去っていた。
自転車で移動しなかったのも、何も考えずにただ景色を眺めたかっただけだった。
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