#21 流離人 vol.2
三人のマークマンに囲まれた流川。
表情こそ変えなかったが、流川もこの「奇策」に動揺した一人だった。
完全に囲まれた流川は動く事が出来ず、態勢を整えるため、なんとかガードにパスを出す。
(くそ、三人がかりか…)
額の汗を手で拭う。
…三人がかりで取り囲まれるようなマークは初めてだった。
動こうにも手出しができない。
流川の動きが制限された事で富ヶ丘中の動きが悪くなってしまっていた。
そして、ここから四中の追い上げが始まった。
流川の周りには常に三人のディフェンスが目を光らせていて、流川にパスが回らない状態が続いていた。
「いいぞ!流川を徹底的に抑えるんだ!」
「はい!!!」
四中ベンチから監督の声が飛ぶ。
(ちっ…うるせーな)
その言葉に流川のイライラが募る。
流川はなんとかボールを奪うが、すかさず三人のチェックが入る。
強引にかわそうとしたが、相手の体にぶつけてしまい、ファールを取られてしまう。
「あぁ~…また突破できなかった…」
流川のファールに富ヶ丘中のメンバーは焦りだす。
「やっぱトリプルチームじゃ厳しいよな…」
「流石の流川でも三人がかりじゃ無理だよ」
そんなメンバーの声が流川の耳に届く。
「……」
タイムアウト開けに聞こえた四中の監督の声も流川の耳に届いていた。
『いくら流川でも三人相手では何もできまい!』
流川にとって侮辱にしか聞こえないセリフだった。
しかし、三人のディフェンスに抑えられているという「事実」に苛立ちを隠せない。
(くそ…このままじゃ…)
(負けたくねー…)
(負けたくない…)
この時、流川は夏の大会をふと思い出した。
あの時はダブルチームだったが、完全に押さえつけられてしまった。
流川にとって嫌な記憶が蘇る。
完全に動きを封じられた自分。
無様な自分の姿が脳裏に浮かんでくる。
負けた悔しさと悲しみが蘇ってくる。
そして…
同時に馨の泣き顔がはっきりと脳裏に浮かぶ。
(私、負けたくなかった…負けたくなんかなかったのに…負けなかったら、あんな思いは…)
…しなくてすんだのに。
(負けなかったら…!!)
夏の大会決勝戦の日にあった全ての出来事が流川の頭の中を一瞬のうちに駆け巡っていった。
--勝ったチームの歓喜と歓声。
--負けた自分達の嗚咽。
--稲村の罵倒。
--その時の自分の赫怒(かくど)。
真っ青になった馨を探し、号泣する馨を初めて目の当たりにして…
自分を見失った馨を何とかしたくて海に連れ出した。
悲しいほどの波の音と夕焼け。
あの日見た海の風景が流川の頭に焼きつく。
寂しく見えた海が頭の中で鮮明に映し出される。
(負けたくなんか、なかったのに…)
馨の言葉が頭に響いた。
その瞬間。
流川にボールが回った。
(負けたくねー!)
ボールを受け取った流川は目の前の三人のディフェンスをキッと睨みつける。
(オレはもう、誰にも負けねー)
(三人がかりであろうと、関係ねー…)
(…蹴散らす!)
流川の中で何かが爆発した。
燃え上がるような気迫にディフェンスは一瞬怯んだ。
その一瞬の隙にディフェンスをくぐり抜け…
ドガアァァァ!!!!
流川は三人のマークマンの上から力強いダンクを決めた。
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