#20 流離人 vol.1


試合に負けたものの、流川の心は思いのほか悔しくはなかった。

なぜか気持ちがすっきりしていた。

負けたのに、どうして。悔しいはずなのに、どうして。

自分の気持ちが自分で理解できていなかった流川は不思議な感じがしていた。

どうしてだろう…

自分の手のひらを見つめるが、その答えは何も浮かんでこなかった。

『答え』を探したくて流川は顔を上げ、体育館をぐるりと見回す。

見回した後、自分の無意識の行動に怒りとなんとも言えない脱力感を覚える。

わかっているのに…。

ここにはいないとわかっているのに…。

自分を理解し、答えを差し伸べてくれる人は、ここにはいないのに…

だけど、誰かを責める気持ちは今の流川にはなかった。

責めるとしたら、多分、自分。

自分自身の事なのに、自分の中の答えすら見えない自分に無性に腹が立つ。

流川は体育館の壁に腕を組んでもたれかかりながら思いを巡らせる。

思考を一つ一つ思い出しては自分の中でまとめていく。

…そう。自分は試合前、とてもイライラしていた。

原因は自分をなじったアイツ、稲村だ。

お前にキャプテンが務まるものかと。自分を…バカにしたような態度。

しかし、試合前のドロドロとした気持ちは不思議となくなっていた。

無意識のうちに、プレイ中に自分の気持ちを全て吐き出してしまっていたことに、流川は気づいていなかった。が。

プレイをしたことで、何か吹っ切る事が出来たのは理解していた。

自分は全てを出し切った。

出し切ったことで、自分は何か変わったような気がする。

何が変わったのだろうか。

自分は一歩前へ進んだような気がするのだが、その一歩は何なのか、よくわからなかった。


『流川先輩は、それでよかったんですか?』


そんな言葉を投げかけた水沢の声が頭の中で響く。

流川は目を瞑って顔を上に向ける。

まぶたを通して暖かい陽の光を感じる。


(なんか、大丈夫じゃねーかも)


そして、思わず呟いてしまう。


「馨…俺、どうしちまったんだろ」


気持ちはすっきりしたものの、考えれば考える程、後味が悪くなっていく。

自分がこんなにネガティブな人間だったとは思いもしなかった。

そして、こんなに思いつめたのも初めてかもしれない。

流川の目と、胸の奥に痛みが走った。

To be continues
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2010.11.02
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