#20 流離人 vol.1


今日で正式に引退する3年生。

「引退」といえども、部活に参加できなくなるわけではない。

チームの中心を2年生へと譲るだけのかたちなのだが、3年生一同は「これが最後」という気持ちで、バッシュの紐を結ぶのにも気合が入る。

流川もまた、キャプテンとなって初めての試合だ。

こちらも気合が入る。

軽くストレッチをしていると、稲村が流川に話しかけてきた。


「おい、お前がキャプテンやるんだってな」

「はい…」


内心、話しかけられたくないと思っていた相手だった。

しかし、そこは先輩後輩の関係。

社交辞令だと言い聞かせて平静を装う。


「女バスの方のキャプテンも『なんとか』決まったようだぞ」


言葉の一部を意味ありげに強調する。

その強調の意味はわかっている。

馨不在の事をいいたいのだろう。

流川の中で怒りの感情が芽生えたが、何とか押さえつける。


「そう、ですか」

「あぁ、そうらしいぞ」


ニヤリと笑いながら稲村は流川の元から立ち去る。


(それだけ言いにきたのかよ。性格最悪…)


流川はせめてもの反抗として、稲村の背中を睨みつける。



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