#20 流離人 vol.1
沈黙する流川に葵は小さく微笑む。
「迷ってるの?らしくないわね」
その言葉に流川は顔を上げる。
「珍しいわね。深く考えるなんて。そんなに無理に考える必要はないんじゃない?」
「……」
流川は何も言えず黙って葵の言葉を聞いていた。
「どんなキャプテンでもいいじゃない。キャプテンはこうでなければいけない、なんて決まりはないんだから。楓なりのキャプテンをやればいいのよ。無理に枠にはめたところで、楓らしくなければ誰もついていかないと思うわ。」
葵は黙って自分の話を聞く流川を目を細めて見たのち、話を続ける。
「あなたなりにやれば、いいんじゃないかしら。-------」
葵の声の他にもう一つの声が重なって聞こえる。
『らしくないなぁ!楓は言葉でチームを引っ張っていこうとするからダメなんだよ。楓のプレイで引っ張っていけば?』
「!!」
葵の声と馨の声が重なって聞こえた。…ような気がした。
自分の耳がおかしくなったかと思った。
(幻…?)
でも、確かに聞こえたような。
『プレイで引っ張っていけば?』と。
「…プレイで…?」
「そう。1年の水沢君だったかしら。あの子は楓のプレイを見て、それに憧れてバスケをしているんでしょ?言葉で言えないならプレイでチームを引っ張っていけばいいのよ」
自分にそんな力があったのだろうか。
でも、言葉が無理ならプレイで何とかできるかもしれない。
自分にはプレイすることしかできない。
懸命にプレイすることしか…
今まで培ってきた技術が、チームを引っ張っていけるのなら、…やってみようか。
「色々気にしすぎるなんて、楓らしくないわ」
「…あぁ…」
流川はそう言って置いてあった箸を手に取る。
先ほど箸を置いた時の表情とは一変している。
複数の感情が、一つになったような…
それを見た葵はそれ以上は何も言わなかった。
ここから先は自分自身で考えることだから。
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