#20 流離人 vol.1
富ヶ岡中には3年生が引退する日、3年生対1・2年生の試合を行うことが慣例となっていた。
3年生は全ての力を出し、その技術や熱意を後輩への「置き土産」として。
後輩たちはそれをしっかりと受け止めるため。
そして、それは3年生から2年生への世代交代を意味する試合。
この試合を境にキャプテンが交代する。
その試合は1週間後…。
その試合より前に流川はキャプテンを引き受けるか否か決めなければならない。
部室で着替えながら長谷監督の「キャプテン任命」の事を考え込んでいた。
自分がキャプテンになるだなんて考えたこともなかった。
話すのが苦手で、人と関わるのが面倒だと思う自分に、どうして監督は自分を選んだのだろう。
そして、こんな自分にキャプテンという任務が務まるのだろうか。
いや、絶対無理だ。
人にあれこれ口出しするのも面倒な上に、この無口な自分が何かしたところでその意図を誤解されることが多々あるのに。
でも、監督はそんな自分に「頼みたい」と言った。
自分にそんな事を任せられると認めてくれているからこそなのだが…
自分はどうするべきか…
監督の言うとおり、キャプテンを引き受けた方が自分の為になるのだろうか。
でも、キャプテンという役目を自分がやれるという自信はない。
「………くそっ…」
感情をぶつける様にロッカーの扉を勢いよく閉める。
激しい音が誰もいない部室に響く。
流川は無言のまま、心の中で舌打ちする。
この時ばかりは誰かに相談したいと思った。
こんな時、アイツがいたら。
馨がいたら真っ先に相談するのに。
もし、アイツがいたら何て言うだろうか。
このまま日本にいたら女子バスケ部のキャプテンになっていただろう馨。
きっと依頼されたら素直に引き受けただろう。
馨は自分と違って人当たりはいいし、人の細かいところまで気づくヤツだからきっといいキャプテンになっただろう。
…相談できたのなら。
アイツなら何て言うだろう。
キャプテンはチームをまとめていかなければならない。
俺は、どうすればいいんだろう。
心の中のアイツは何も言わない。
問いかけても、何も応えなかった。
「…どあほうが…肝心な時に…」
外は曇り空だった。
部活が始まる前は晴れていたのに、いつの間にか厚い雲に覆われていた。
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