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#19 ふたりぼっち vol.3


「…おい」



昼休み、流川は釈然としない気分のまま、馨のいる教室に行き、半分にらみつけるようにその扉に立ちはだかる。


怒気を含んだオーラに包まれた彼を扉に迎えた教室は一瞬のうちに静まり返る。



「…ちょっと顔貸せ」



そう言ってすぐさま扉から離れた流川を見たのち、言葉を投げかけられた相手をクラスの一同は視線を集める。



その相手…馨は無表情のまま席を立ち、流川の後を静かについていった。











--屋上


外は雲と晴れ間が半々で、風は一切吹いていなかった。


体育館が見える位置で二人は並んで手すりを掴む。


体育館の屋根を神妙な面持ちで見つめたままの馨をチラリと確認したのち、流川は独り言のようにポツリと呟く。



「本当にアメリカに行くのか」


「………」



馨は表情をそのままに視線だけを下の方に移していく。



「どうしても行くのか」



話さない事を無理して聞き出すのは不本意だが、黙ったまま行くのは許さない。


このまま黙ったまま行かれては残った自分はどうなるというのか。


答えを待つ流川に馨は遠くを下を見つめたままそれに応える。



「…行くよ。どうしても行きたいんだ…」


「どうしてもか」


「うん…」


「どうしてだ」


「……」



口を閉ざし、再び無言になる馨。


話したくないのか…


話せないのか…


だとしても、どうしても聞きたかった。


聞き出しておきたかった。


何を考えているのかを。何をしたいのかを。



「…話せ。全て俺に話してみろ」



流川の口から出た言葉は彼の奥底の本心だった。


そう。誰にも話せないのなら自分に話せばいい…。


きっと自分なら理解してやれる。


痛みなら分かち合える。


つらいことは半分にできる。


俺にはきっとそれができる。


できるはず。


…だから、話せ。





無言の時間が過ぎていく。


どのくらい経ったのかわからない。たった数分かもしれないが二人には長く感じた。


その時間を断ち切るように馨が口を開く。



「確かめてみたいんだ」



顔を上げ、空を見上げてそう言った。



「確かめてみたいんだ…。」


「何を…?」


「それは………」



確信に触れようとすると再び言葉が出なくなる。


どうして…。



「…オレにも、話せない事なのか」


「……」


「話せないのか…」



馨の手は手すりをグッと掴んでいる。


流川はその拳を見つめたのち視線を空に浮かぶ雲へと移す。


この空のずっと向こう。


ずっと先、アメリカに通じている。


その地で馨は何をするのか。


何をしたいのか。


口にはしなかったが…



「…わかった。」


「…え?」



馨がここに来て初めて流川の顔を見上げる。


流川の視線は雲を仰いだままだ。



「もうわかった。お前の好きにしろ。勝手にするんだな」


「楓………」



そう吐き捨てて流川は馨の隣から離れ、下に下りる階段へと歩いて行った。



『お前の好きにしろ』


『勝手にするんだな』



一見冷たく聞こえるこの言葉を発した流川の本心を馨はすぐさま理解した。



「…楓!!」



階段へと通じる扉の前で流川は視線のみで振り返る。


いつもどおり表情はない。



「…ごめんね。…ありがとう…。」


「どあほう…好きにしろっつったろ」



流川はガチャリと扉を開けてその中へ消えていった。


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