#19 ふたりぼっち vol.3
ほんの少しの沈黙の後、馨は開いていた雑誌を片手でパタンと閉じる。
ふっと短い息を吐いた後、目を閉じたまま顔を上に上げ、ゆっくりと目を開け、小さな声で呟く。
「負けたくなかったな…」
「ん?」
「決勝戦…」
「あぁ……」
馨があの日の事を口にしたのは初めてだった。
お互い、決勝戦の日の事は話せずにいた。
なんとなく、口に出してはいけない、言ったら何かが崩壊しそう…そんな感じがして…
「そうだな…。」
「負けてなかったら、よかったのに」
「……」
そう、負けていなかったらよかったのに…
負けていなかったら、二人ともこんな思いはしなくてすんだのに。
自分たちはただ、好きで二人でバスケをやっていた「だけ」だったのに。
それを全て否定されてしまったような感じだった。
「私、負けたくなかった」
「…わかってる」
「ずっと負けたくないって思ってた。ずっと。それだけ考えてた」
「……」
馨は常日ごろから信念にしていたことがあった。
「負けたくない」と。
誰にも負けたくない。
どんな相手であろうと、負けたくない。
それが彼女の信念であり、強さであった。
「負けたくなんか、なかったのに…」
「まだ来年があるじゃねーか。来年、負けなければいい」
「うん…」
「…らしくねーな。お前らしくもねー。…あんなヤツの言った事なんか忘れろ」
『お前はどうして女なんだ』
『お前はどうして男じゃないんだ』
稲村の冷たい言葉が二人の間に鳴り響く。
そのとき、南風が部屋のカーテンを揺らし、二人の髪も揺らして通り抜けていく。
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