#19 ふたりぼっち vol.3
夏の大会が終わって間もない頃、父・樹(いつき)の海外出張が決まった。
場所は、アメリカのシアトル。
優秀なプログラマーである樹は会社の大きなプロジェクトのため、渡米する運びとなったのだ。
火急の出張の為、どのくらいの期間に及ぶかわからないので、樹は当然ながら単身赴任することになった。
夕食を半分ほど食べたところで樹がこの出張の話を急に始めたので3人の箸の手が止まってしまう。
「まぁ…どうしてまたアメリカなの?」
急な話にも関わらず、母・葵(あおい)は冷静に理由を聞く。
「プログラムを作るウチの大元の会社がアメリカにあるのは知ってるね。その会社とアメリカの企業で大きなプロジェクトの話が持ち上がっていたんだが…打ち合わせや作業のやりとりに関して日本にあるウチの会社がそのパイプ役をしてほしい、って言うんでね。だからアメリカに行ってくれないか…ってね。あと、自分の技術ももっと上げたいしね」
「それにしても…随分と急に決まったのね」
「自分でもビックリしているんだよ。急にプロジェクトの進行が早くなってね。…悪いね、急な話で」
「貴方の仕事の大変さは理解しているつもりよ。いつも出張ばかりで。それがちょっと遠くて長いだけですから」
「…すまないね」
父と母は職場結婚なんだそうだ。
同じ会社でSEとして働いていた母。
残業や出張が多い職場を理解しているのでこの辺りは寛容だ。
落ち着いて話を続けている二人はよほどの理解力で繋がっているのだろう。
そんな家族との会話中、少し考え事をするように話を聞いていた馨の目がいつになく真剣なのに流川は気づく。
少し不思議そうな顔をする流川に馨が気づくと、心を読んだかの様につぶやく。
「…なんでもないよ」
「?」
何ともない会話だったが、その後遠くを眺めるような視線が妙に気になった。
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