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#18 ふたりぼっち vol.2

どのくらい時間が経っただろう。

辺りは徐々に薄暗くなっていき、肌寒くなってきた。

今まで何も言わなかった馨がようやく自ら口を開く。


「楓…」

「…なんだ」


隣に目をやると、膝をギュッと抱え、小さくなって座っている馨がいた。

心なしか目が潤んでいるように見える。


「……ごめんね」

「…?」

「…ごめんね」

「…なんで、謝る」

「……わかんない」


馨自身、なぜ謝ったのかよくわからなかった。

ただ、この言葉を口にしていた。

流川はふぅっと息を吐く。


「お前は悪くない」

「…でも」

「謝ることなんて何もねー」

「……」


そう、馨は悪くない。

謝ることなど何もないのに。


「私、楓と同じだったらよかったのに。そしたら、何も言われないのに」

「バカな事いうな」

「でも、周りはその方がよかったみたい。周りの女の子達も、何か見る目が違うんだもん」


自分は気づいていた。

自分に猫なで声で近づいてくる女子生徒の思惑を。

自分を見る目に誰が映っているのかを。

そして…


「そして、稲村先輩も…」

「アイツの言うことなんか気にするな」

「…違うの」

「…?」

「私、心の奥で考えてたの。『もし、性別が同じだったら』って。そして、一緒にプレイできたら楽しいだろうなって。でも、稲村先輩にその事を言われて足元が崩れていくようだった。目の前が真っ暗になって、体中が重くなって…指先がチリチリ痛くなって…。胸の奥が苦しくて…。私、同じ事考えてたんだって。私の考えてた事と稲村先輩の考えてた事は同じ事だって…。」


馨が一気に言葉を吐き出したところで海風が一瞬強く吹き付けた。

その風がやむのを待ってから流川は口を開く。


「アイツの考え方と、お前の考え方は違う」

「でも、同じだよ」

「違う。全然違う。同じじゃねー」


アイツは馨そのものを否定した。

「一緒にプレイしたい」という純粋な気持ちなど一切ない。

『負』の気持ちだけ。


「でも、同じなんだよ…」


馨は膝をギュッと抱き、顔を埋める。


(同じなんだよ…私が考えていた事は、稲村先輩と同じなんだよ…誰がなんと言おうと、同じなんだよ)


馨の心に刻まれた傷は、とても深かった。

どんな言葉も効かなかった。

一度刻まれた傷は、蝕むようにどんどん大きくなっていく。

黒くなっていく…

馨の悲しみは稲村に言われた言葉だけではなかった。

自分が「もしそうなったら」と考えていた事が、稲村の言葉通りの事だった、という事実。

それは考えてはいけない事を考え、自分自身の存在を「残念」と自ら心の奥で考えていたかもしれなかったという、罪悪感に似た感情。

自分自身が自分を否定していたかもしれない…

それは、馨の心を砕くのに十分すぎる事だった。

そんな馨に流川の言葉ですら届かなかった。

どんな言葉も心に入ってこなかった。

人は、一度負の種を蒔かれるとどんどん根を深く成長させてしまう。

取りのぞいたとはいえ、僅かにある残骸が再び心を侵食していく。

弱くなっている時ほどその侵食は深く、早い。

馨は次第に黒くなっていく海をじっと見つめていた。

心がズルズルと飲み込まれていくようだったが、視線を反らす事ができなかった。




To be continues

2010.10.12
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