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#18 ふたりぼっち vol.2

その日の夕方、馨を自転車の後ろに乗せて海に向かった。

試合が終わって、家に帰ってもどこか意識の戻らない馨を引っ張り出してきた。

具体的な理由はよくわからなかったが、このまま放っておくわけにはいかなかったからだ。

「自分自身」も。



気温は高めのはずなのに、海風が妙に冷たく感じる。

落ちかける太陽もなぜか哀愁を感じさせる。

普段、こんな気持ちで見たことがない景色。

何もかも悲しく見える。

ゆっくり波打つ海岸も、

夕日に照らされる烏帽子岩も、

ぽっかり浮かぶ江ノ島も。

何故か全てが悲しみを助長させる。

同じ気持ちで見ているであろう同乗者の、自分のシャツを握る手に力が入る。

連れ出したのは酷だっただろうか。

こんな悲しい景色を見せるのは。

でも、じっとしていると、負の気持ちしか出てこなくて…。

そんな気持ちをかき消したくて、海岸線を走る道路を風を切って走る。

夕日を見たくなくて、それを背にしてペダルを漕ぐ。


しばらく走らせたところで、あまり人気のない海岸を二人で降りる。

定期的に押し寄せる波をじっと見つめながら。

並んでしゃがみこむと、後ろから電車の走る音がゴトンゴトンとかすかに聞こえてきた。

時折、やかましく音楽を鳴らす車が通り過ぎる。

それ以外は余計な音は一切しない。

海から吹く風が髪を巻き上げていく。

目の前に広がる海を、ただ見つめる。

ただ、見つめるだけで、お互い声を発しなかった。

ぼんやりと、ただ、海を見つめるのみ。



何かあると、こうして海に足を運ぶ。

それは、二人だったり、一人きりだったり。

広大な海を見つめていると、頭の中がからっぽになって、考える事を忘れさせてくれる。

全てを包み込む空と、海。

その二つが何もかも空っぽにしてくれる。




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