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#18 ふたりぼっち vol.2


(どこいった…馨)


流川は会場中走り回り、馨を探した。

しかしどこを見ても馨の姿は見当たらない。

もしかしたら会場の外に飛び出してしまったのかもしれない。

そう思いながらも会場内のどこかにいるかも、と思いながら走る。


(ちくしょう、どこいった…)


色々と考えるよりまず先に、馨を見つけ出したい。

馨を、見つけ出さなければ…


体育館奥の暗闇に包まれた廊下にふと目をやる。

天井近くに小さな窓が一つあり、わずかな薄明かりの中に人影が見えた。

流川は乱れた呼吸を整え、ゆっくりと歩み寄り、静かに声をかける。


「馨…?」


馨であろう人物の後ろから名前を呼ぶが返事がない。

力なく立っている後姿が小さな光で見てとれる。

顔は見えないがそれは間違いなく探していた人物だった。


「馨……」


流川はもう一度、静かに名前を呼ぶ。

声が届いていないのか、または「届かない」のか…相手からの反応は一切ない。

多分、聞こえているはずなのに心には届かなかったのかもしれない。

ショックで全ての感覚が麻痺しているのだろうか。

流川がもう一歩足を前に踏み出したとき、ようやく相手から反応があった。


「……かえで?」


聞こえるか聞こえないかという程の弱弱しい返事が耳に届いた。

僅かに反応した馨に少しずつ歩み寄る。


「…ここにいたのか」

「楓……」


馨の頭がかすかにこちらを向く。

馨から発せられる声はとても細くて今にも消えてしまいそうだった。


「…探したぞ」

「……」


流川は先ほどまでの苛立つ気持ちを必死に押さえつけ、「何事もなかった」かのように話しかける。

しかし馨は再び沈黙する。

まるで「抜け殻」状態だった。

しばらく続いた重い沈黙の後、馨がようやく口を開く。


「楓……」

「…なんだ」


微弱な声。


「楓は…私が女で、残念だった…?」

「…何言ってやがる」


馨の声は震えていた。

無理に声を発している。

薄暗い中だったが無理に笑みを浮かべているのもわかった。


「楓も、私が男だったらいいと思った?」

「…何言ってる」

「私が女じゃなくて男だったらって…そしたら同じチームでプレイして…試合にも勝てたって思った…?」

「てめぇ、何言ってやがる!!!」


琴線に触れたかのように声を張り上げ、馨の肩を掴み、力ない体をグイッとこちらに向ける。


「楓…」


力任せにこちらに向けた馨の顔は真っ青だった。

喪失感で全身ガタガタと震えている。

体には全く力が入っておらず、少し伏した目には涙が溜まっていて、今にもあふれ出そうだった。

ほんの少し押したらそのまま倒れてしまいそうだった。

僅かに力を入れたら粉々に砕けてしまいそうだった。

そんな姿を見て、名前を呼ばずにはいられなかった。


「馨……」

「……」

「……」


反応のない馨の姿を見つめる。


(こいつ……)


いつも見せる元気な馨の姿ではなかった。

これが、あの馨なのか?

これが、いつも自信に満ちた馨の姿なのか?

これが、自分の知っている馨なのか?

そこにいるのは全くの別人のようだった。

立っているのがやっとで弱弱しい姿。

流川は、何も、言えなかった。



「楓は…私が男の方がよかった?」

「何言ってる。そんなこと今まで一度たりとも思ったことねえ」

「私は、女じゃいけなかったのかな…」


伏したままの目で馨が力なく口を動かす。


「どうして私は楓と同じじゃなかったんだろう…」


振り絞るような馨の声は、震えが大きくなる。


「もう、何も言うな」

「わたし、、わたし……」

「……」


馨の限界が近づいてきていた。

声の震えが大きく、言葉を発するだけで精一杯だった。

胸が締め付けられる。

もう、見ていられなかった。


「…もう、何も、、言うな……」


そう言って、馨の体を自分に引き寄せる。

なんの抵抗もなく体がもたれかかる。

馨の頭が自分の肩に当たる。

その頭に優しく手を置く。


「もう、何も言うんじゃねぇ…」


…小さな頭だった。

小さな子供のようだった。

こんなに小さかったのかと今初めて感じられた。

もたれ掛かった体はとても軽かった。

体の震えが自分の手と肩を通して伝わってくる。


「…お前はお前だ。俺は何とも思ってねぇ」

「……か、えで…」




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