#17 ふたりぼっち vol.1

馨はいてもたってもいられず、男バス控え室の前でウロウロしていた。

午後から始まる自分の試合に集中しなければいけないことはわかっていたが、ここにいずにはいられなかった。

その控え室からはもの音一つ聞こえない。

その静けさからは悔しさと悲しさが伝わってくる。


ガチャ…と静かに控え室の扉が開く。


「か、楓…」


ぞろぞろと出てくる部員たちの中に流川の姿を見つけ、思わず名前を呼ぶ。


「……」


しかし、流川の表情を見た途端、それ以上は声が出なかった。

誰も寄せ付けぬ雰囲気を醸し出す彼に、かける言葉が見つからなかった。

流川はチラリと馨を見たが、何も言わなかった。


「あ、馨先輩…」

「水沢…」


流川の後ろから水沢が足取り重く出てくる。

目にはうっすら涙が見える。


「すいません、オレ…流川先輩の足手まといに…」

「水沢、お疲れ様。いいプレイだったよ」


馨は水沢をねぎらうように右腕をポンポンと叩く。


「そんな…オレ、何も出来ませんでした。同じフォワードとして流川先輩を助けなきゃいけなかったのに…」

「相手チームはディフェンスに力を入れてるチームだった。しかもダブルチームにいった選手は特にディフェンスがうまい選手だった…」

「でも、オレ…いいポジションにいけなくて…パスをもらえなくて…」

「……」


悔やむ水沢に今度は肩にぽんと手を置く。


「水沢。1年生にしてはいい動きだったよ。将来が楽しみだね」

「……っ…馨先輩……」


言葉をかけられた途端、水沢はこらえていた涙を流した。


「くっ……うっ……」


声を抑えながら泣き出した。

馨はただ水沢の肩に手を置くことしかできなかった。


「流川、馨か?」


選手の一番最後からキャプテンの稲村が出てきた。

準決勝のに会った時以上に怖い目つきをしていた。

突き刺すような視線が怖い。


「稲村先輩…」

「……」


「あ、あの、残念です…あと少しだったのに…」

「………」


稲村は無言で馨を睨み付けている。


「……?」


そう、この視線。

馨はその視線の意図が読めず、稲村を見つめていた。



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