#17 ふたりぼっち vol.1
市大会、県大会と、富中バスケ部は男女共に順調に勝ち進んでいった。
そして流川姉弟の評判はうなぎ登りに高まるばかりだった。
「あの2年生、速い!」
「すごいドライブだ!」
「富中にはすごいエースがいるな!3年になった時が楽しみだな」
試合を重ねるごとに周囲の注目を集めていき、名前も知られるようになっていった。
----
「決勝進出おめでとう!いや~相変わらずのオフェンス力だね。一人で18得点!やるねぇ」
「うす」
この日、富中男子バスケ部は県大会決勝にコマを進めた。
富中バスケ部、ペアで初の決勝進出。
これは富中の「流川」の名前を神奈川県の中学バスケ部に知らしめる結果となった。
「そっちこそ」
「ん?」
「……決勝進出」
「ん、ありがとう!」
お互いがお互いの言葉で決勝進出を祝った。
「決勝戦は同じ日、同じ会場だね。そっちの試合の方が先なんだって。頑張ってね」
「おう」
「勝てば全国か…どんな感じかな。全国って」
「…さぁな」
勝てば全国大会。
初めての全国がかかった試合。
二人とも気合が入る。
「勝てば全国!考えただけでドキドキするね」
「うーむ…」
「わかってる?決勝だよ、決勝。神奈川の頂点を決める試合だよ」
「それくらいわかってる」
「はぁ…わかってないよ。わかってないから毎試合集合時間ギリギリなんでしょ」
馨は両手を腰に置く。
「聞いたよ、水沢から。『試合ある毎に遅刻ギリギリだから冷や冷やする』って。…嘆いていたよ」
「あいつめ、ヨケーなことを…」
「ったく、バスケの時とそうでない時のオンオフの差が激しいんだから…だから彩子先輩にもからかわれるんだよ」
馨は呆れ顔でわざとらしくため息をつく。
「流川せんぱーい!」
遠くから水沢が走りながら流川を呼ぶ。
「流川先輩、そろそろミーティング始まりますよ」
「…あぁ」
「いってらっしゃい、富中のエース!」
馨は流川の背中をポンと軽く叩く。
「じゃ」
「『エース』に対して否定はしないのね」
からかい半分で流川を見送る馨。
「あっ、そうだ、馨先輩。稲村キャプテン見ませんでした?」
「稲村キャプテン…?いや、見てないなぁ…」
「おかしいなぁ…さっきから探してるんですけど見つからないんですよ…もし見かけたらミーティングの事、知らせてください!」
「了解、わかったよ」
馨は流川と水沢の背中を手を振りながら見送った。
「決勝かぁ…」
緊張感と高揚感が絡み合う。
全国とはどんな世界なのか。
決勝で勝てば、それを知ることが出来る。
それだけで心がいっぱいになっていた。
負けたくない。
勝って、全国に行きたい。
自分の知らない世界を、見てみたい。
キュ…
後ろでバッシュの音が聞こえ、馨は振り返る。
そこには富中のユニフォームを着た長身で短髪の男性が立っていた。
「あ、稲村先輩」
「…」
そこに立っていたのは男バスキャプテンの稲村。
睨むようにして馨に対峙する。
明らかに不機嫌そのもののその顔は決勝進出を果たしたばかりの選手のものでななかった。
その姿に一瞬背中が寒くなる。
「あの…ミーティング始まるそうですよ。水沢が探してました」
僅かな静寂の時間を壊したくて、馨はおずおずと口を開く。
「あぁ…わかった…」
稲村はそう言ったまま馨の横をスッと通り、控え室へと向かった。
すれ違った瞬間、ビリッと電気が走ったような感覚が残った。
「???」
(どうしたんだろう、稲村先輩。なんか怒ってたみたいだけど…)
馨は意味がわからなくて首をかしげた。
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そして流川姉弟の評判はうなぎ登りに高まるばかりだった。
「あの2年生、速い!」
「すごいドライブだ!」
「富中にはすごいエースがいるな!3年になった時が楽しみだな」
試合を重ねるごとに周囲の注目を集めていき、名前も知られるようになっていった。
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「決勝進出おめでとう!いや~相変わらずのオフェンス力だね。一人で18得点!やるねぇ」
「うす」
この日、富中男子バスケ部は県大会決勝にコマを進めた。
富中バスケ部、ペアで初の決勝進出。
これは富中の「流川」の名前を神奈川県の中学バスケ部に知らしめる結果となった。
「そっちこそ」
「ん?」
「……決勝進出」
「ん、ありがとう!」
お互いがお互いの言葉で決勝進出を祝った。
「決勝戦は同じ日、同じ会場だね。そっちの試合の方が先なんだって。頑張ってね」
「おう」
「勝てば全国か…どんな感じかな。全国って」
「…さぁな」
勝てば全国大会。
初めての全国がかかった試合。
二人とも気合が入る。
「勝てば全国!考えただけでドキドキするね」
「うーむ…」
「わかってる?決勝だよ、決勝。神奈川の頂点を決める試合だよ」
「それくらいわかってる」
「はぁ…わかってないよ。わかってないから毎試合集合時間ギリギリなんでしょ」
馨は両手を腰に置く。
「聞いたよ、水沢から。『試合ある毎に遅刻ギリギリだから冷や冷やする』って。…嘆いていたよ」
「あいつめ、ヨケーなことを…」
「ったく、バスケの時とそうでない時のオンオフの差が激しいんだから…だから彩子先輩にもからかわれるんだよ」
馨は呆れ顔でわざとらしくため息をつく。
「流川せんぱーい!」
遠くから水沢が走りながら流川を呼ぶ。
「流川先輩、そろそろミーティング始まりますよ」
「…あぁ」
「いってらっしゃい、富中のエース!」
馨は流川の背中をポンと軽く叩く。
「じゃ」
「『エース』に対して否定はしないのね」
からかい半分で流川を見送る馨。
「あっ、そうだ、馨先輩。稲村キャプテン見ませんでした?」
「稲村キャプテン…?いや、見てないなぁ…」
「おかしいなぁ…さっきから探してるんですけど見つからないんですよ…もし見かけたらミーティングの事、知らせてください!」
「了解、わかったよ」
馨は流川と水沢の背中を手を振りながら見送った。
「決勝かぁ…」
緊張感と高揚感が絡み合う。
全国とはどんな世界なのか。
決勝で勝てば、それを知ることが出来る。
それだけで心がいっぱいになっていた。
負けたくない。
勝って、全国に行きたい。
自分の知らない世界を、見てみたい。
キュ…
後ろでバッシュの音が聞こえ、馨は振り返る。
そこには富中のユニフォームを着た長身で短髪の男性が立っていた。
「あ、稲村先輩」
「…」
そこに立っていたのは男バスキャプテンの稲村。
睨むようにして馨に対峙する。
明らかに不機嫌そのもののその顔は決勝進出を果たしたばかりの選手のものでななかった。
その姿に一瞬背中が寒くなる。
「あの…ミーティング始まるそうですよ。水沢が探してました」
僅かな静寂の時間を壊したくて、馨はおずおずと口を開く。
「あぁ…わかった…」
稲村はそう言ったまま馨の横をスッと通り、控え室へと向かった。
すれ違った瞬間、ビリッと電気が走ったような感覚が残った。
「???」
(どうしたんだろう、稲村先輩。なんか怒ってたみたいだけど…)
馨は意味がわからなくて首をかしげた。
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