#17 ふたりぼっち vol.1

翌日の放課後、いつものように二人居残って1on1をする。


「今日は絶対止めるからね!」

「フン、また上からシュートしてやる」


馨は右腕のリストバンドの位置を直しながら闘志を燃やす。


―そう。

―「負けたくない」

―どんな理由であろうと。

―どんな相手であろうと。

―負けたくない…



ダム…

ダム…


馨からボールを受け取ると、流川はゆっくりとドリブルを開始する。

馨はすぐさまディフェンスの体勢をとる。

一瞬、睨み合う。


「行くぜ」

「…こい!」


ダムッ!!!

流川はドリブルを強くし、一気にスピードをつける。


(いきなりきたっ!!)


馨もそのスピードに反応する。

流川のスピードについていこうと自分も一気に足のスピードを上げた。

一瞬二人は併走する。


(抜かせない!)


ゴール下までもつれ込むかと判断したその時、

流川は右腕で馨のディフェンスを押さえ込むようにして止め、急激にストップをかける。


(しまった!!)


予期せぬストップで、馨のディフェンスにわずかな距離が生まれた。

馨はバランスを崩してしまう。

その隙をつき、流川がジャンプシュートの体勢に入る。


(…もらった!)


流川がボールを高く上げようとした時だった。

馨がブロックに跳ぶ。


(誰が…っ…打たせるか!!!)


ピシリ!!!!


「…!!!」


目一杯伸ばした馨の手が、ボールを弾いた。

馨はバランスを崩したがすぐさま反応し態勢を立て直し、放られる寸前のボールを下から指先で弾いた。

弾かれたボールはリングとは違う方へ飛び、フロアに転がっていく。


「………」


馨は冷静な表情で流川を横目でチラリと見た後、転がるボールを拾いに歩いていった。

全身を突き刺すようなその顔はさも当然と言わんばかりだった。

馨はいつなく「本気」だった。

本気になった馨の集中力は凄まじい。

それは流川自身が一番よく知っていた。


「…にゃろう」


次は馨がボールを受け取り、ドリブルを始める。

お互い声を発しないまま睨み合う。


「……」

「……」


ドリブルの音だけが体育館に響く。


ダムッ!!!!!


先ほどの流川と同じく、フェイントなしで突っ込んでくる。

そして流川のディフェンスがピッタリとついたまま、ゴール下へもつれ込む。

そして馨は左足で踏み切り、シュートに跳ぶ。

流川は右から回り込み、ブロックに跳ぶ。

右手方向にあるボール。

普通のレイアップかと思われた。

が。


「…!!」


馨はすぐにボールを左手に持ち替え、腕をグッと伸ばし、流川のブロックを回避してボールを手首の力を使って放る。

ボールは上方向にゆっくりと上がっていく。


……パツン


そしてそのまま真上からリングをくぐった。


「……!」

「あ…っ!!!」


バタン!!!


空中でバランスを崩した馨はそのままフロアに倒れこんでしまった。


「いたた…」

「…無理に打つからだ」


打ち付けたところをさする馨に歩み寄り手を伸ばす。


「大丈夫か?」


少し強い当たりをしてしまったことを反省しながら、馨の腕を掴み、ぐいっと引き起こす。

すると馨はニヤリと笑い、高らかに声を上げる。


「どうだ!見事なボディバランス!!」

「全然見事じゃねー」

「むっ」

「見事じゃねーから倒れるんだろ」

「……ちっ」

(む、舌打ちしやがった…)


ガラリ…

体育館の扉が遠慮がちにゆっくり開く。


「あのう…」


その主は後輩の水沢イチローだった。


「これ、体育館の鍵です。キャプテンに言われて…」

「あぁ!」


「鍵」と言われて馨が水沢の元へと走っていく。


「ありがとう、水沢。鍵かけたら先生のところに持っていくから」

「はい…」


水沢は力なく返事する。

その顔は少し曇っていた。


「どうしたの?水沢。なんかあった?」


うつむき加減の水沢の顔を覗き込むが、水沢は表情を変えなかった。


「具合でも悪いの?」

「あ……いや…」


馨の視線に気づくと、少しバツが悪そうに笑顔を作る。


「いえ、なんでもありません。お先に失礼します!」


そう言って水沢は体育館から走り去っていった。


「…へんなの」


馨は扉から顔を出し、水沢を見送る。


「…どうした?」


流川が後ろからゆっくりと顔を覗かせる。


「なんか水沢、元気なかったみたいだけど」

「帰ったのか」

「うん。走って行っちゃった」

「ふーん…」


この時、二人は知らなかった。

キャプテンの稲村が、水沢に言った言葉を。

まだ、二人は、知らない。



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