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#17 ふたりぼっち vol.1

辺りはすっかり暗くなり、二人は並んで歩いて家に帰る。

闇に浮かぶ月が始まったばかりの夜の街を照らす。

流川は愛用の自転車を押し、チラリと月を見上げる。

月は真っ白に輝いている。

太陽の光を受けて光る月。

自分から発する光ではないのに、なぜ、あんなにも輝くことができるのだろう。

そして、太陽の力で己を輝かせる月は、どうしてあんなにも美しいのだろう。

昼間、地上一面を照らす太陽、

夜、太陽の力で闇を照らす月。

太陽は見えなくとも、月を見ればその力を知る事ができる。

自然というものは、とてもうまく出来ている。


「ねぇ楓、身長何センチ?」


隣を歩く馨が流川を見上げ、ゆっくりと尋ねる。

視線を前へと移し、答える。


「175センチ」

「175か…」

「…お前は?」

「163…」

「…女子じゃフツーだろ」

「そうだけど…」


不服そうな表情。

その目は少し寂し気だ。

流川にはその理由が聞かなくてもわかっていた。

中学に入ってからぐんぐん伸びる自分の身長。

おまけにパワーもついてきた。

しかし、馨の身長は変わらない。

小学校のうちに伸びてしまった馨の背は思うように伸びなかった。

そして、小学校の時は同じくらいの背丈だった流川の間に生まれた成長の差に、馨は少なからず複雑な思いをしているのであろう。


「横の動きははいけるんだけど、縦がダメになってきてる…。もう少し私に身長があればなぁ…」

「……」


珍しく弱気な言葉を言う馨に、流川は少し間をおいてポツリと呟く。


「……じゃあ、俺の勝ちって事で。」

「…?」


流川はチラリと馨を見下ろし、話を続ける。


「俺には敵わないんだろ?だから俺の勝ち」

「なっ……」


言葉を詰まらせ、立ち止まる馨を置き去りに、構わずスタスタと歩を進める。

そして、後ろからバタバタと走る音が聞こえたと思うと、目の前に立ち、進行を妨害されてしまう。


「誰が…誰が負けを認めるもんですかっ!」

「今日だってブロック届かなかったろ」

「届かなくても…、止めてみせる!」


―そう。

―高さは難しいけど、速さなら負けない。


(同じプレイヤーだもん。…負けるもんか)

「……」


流川は馨の目に強い光が感じられるのを確認する。


「じゃあやってみろよ。できるもんならな」

「フン、やってやるよ」


太陽の光が、月を通して夜道をうっすらと照らす。

太陽の力は偉大。

月をこれほどまでに輝かせることができる。

月もまた、太陽の力を一身に受け、美しく光る。

その月が、二人を黙って照らす。



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