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#16 前に進むその思い


うず高く積まれた本の山。

静かで殆ど人の気配はない。

利用する人が少ないせいか、少し埃っぽいにおいが充満している。


「関節結核……あ、これだ」


湘北高校、図書館。

昼休み、馨は一人図書館で分厚い医学書を読み漁っていた。

今朝の水沢の「関節結核」について、調べていた。


「ふーん、結核って昔の病気だと思っていたけど、今でもあるんだね。知らなかった」


読み進めていくと、色んなことがわかった。

骨関節結核は毎年500人ほど発症していること。

炎症が進めば激痛を伴うということ。

治療は長期にわたるということ。

そして、関節結核は治すのが難しく、機能障害を残すことが多いということ。


「機能障害、か…」


ため息をつきながら肘をつく。

ふと、水沢の笑顔が脳裏をかすめる。

水沢の症状は軽いのだろうか、重いのだろうか。

自転車で砂浜を走っていたということは、安静にしていなくても大丈夫なの程度なのかもしれない。

「経過が良好なら」軽いバスケならできる、という医者の診断は間違いではなさそうだ。

しかし、「機能障害が残る事が多い」の文字が気になってしまう。


(……世の中には知らない事が溢れてるんだな…)


自分の知らない現実がある。

その現実を生きている人がいる。

それを知らないでいた自分に情けなさと恥ずかしさを感じた。


『勝負しろ、馨』

『2年前は真っ向から勝負してただろ』


ハードカバーの本の表紙をパタリと閉じる。


「……」


流川は水沢に「自分とバスケをしたいということは勝負したいということ」と言った。

その流川は馨に「勝負したい」と言った。

つまりそれは、

『お前とバスケしたい』

ということ…。

でも馨はそれを拒否してしまった。

馨は言葉の中の思いをようやく理解し、息を吐き出す。


「勝負、か…」


肘をつきながら窓の外を眺める。

自分の夢に向かって進むには、まずは足を動かさなければ。

恐がらないで歩いてみようか。

前に進むために。



To be continues

2010.07.18
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