#16 前に進むその思い
太陽が完全にその姿を現した頃、馨は水沢と別れた。
『俺、来年湘北に入ったらマネージャーになるんです』
『それに完全にバスケが出来なくなったわけじゃないんです。試合は無理ですけど…経過がよければ軽い練習程度なら医者も大丈夫だろうって言ってました』
『だから諦めてるわけじゃないんです』
先ほど無我夢中で通ってきた道を、今度は穏やかな気持ちで帰る。
自転車を漕ぐ足が軽い。
彼はバスケを諦めていない。
病気を乗り越えようとしている。
なんて前向きなんだろう。
自分も乗り越えなければ。
不安定なこの気持ち、乗り越えなければ…
……………
家の前に差し掛かると長身の人物が自転車を降りているのが見えた。
気配に気づくとこちらに視線を向ける。
「てめー、どこ行ってたんだ」
(怒ってる…)
『俺とバスケしたいってのは、勝負したいってことじゃないのか』
水沢が言った流川の言葉を思い出してニコリと笑い、彼の目の前で自転車を止める。
「ちょっと海まで」
「…ふーん」
流川が少し不満げにぼんやりと返事をするのを見て、からかうように少しにやりと笑う。
「あ、一緒に行きたかった?」
「別に」
「またまたぁ」
からかうように言うと、流川はふいっと視線をそらす。
「俺、時々そこで走ってるし、別に」
「むっ!私も一緒に走る!」
「お断りシマス」
「いーじゃん、別に。減るもんじゃないし」
あからさまにぶーたれて目の前を通りすぎる馨を見て、やれやれと口を開く。
「…すげー走るぞ」
すると馨はクルリと振り返り、フフンと鼻を鳴らす。
「私の持久力、なめるんじゃありませんよ」
「途中でバテんなよ」
「フン、誰がバテるもんですか」
昨晩とは違う顔の馨がいた。
海で何があったのか、流川は聞かなかった。
(…なんなんだ、アイツ)
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